【8月10日 AFP】米ラスベガス(Las Vegas)で開催されたハッカーの年次カンファレンス「DefCon」で8日、人々がますます情報をインターネットに依存する中、「クラウドコンピューティング(cloud computing)」によるプライバシー侵害の危険性について警鐘が鳴らされた。

「クラウドコンピューティング」とは、コンピューター本体にインストールされたソフトウェアなどを使う代わりに、インターネット上で提供されるプログラムなどを使用することを示す。分かりやすい例として、グーグル(Google)やヤフー(Yahoo)などのWebメールサービスが挙げられる。また、クラウドコンピューティングは、ドキュメント、スプレッドシート、画像編集といったソフトウェアでも採用され始めている。

 ウェブサイトでは、恒常的にユーザーの身元を明らかにしてしまう可能性のあるデータが保存されている。米陸軍士官学校のコンピューター科学教授グレッグ・コンティー(Greg Conti)氏は、カンファレンスに集まった聴衆に対し、クラウドコンピューティングの傾向が強まる中、プライバシー侵害の危険性は高まっていると指摘した。

 コンティー氏は、クラウドコンピューティングが拡大し始める中、プライバシーへの脅威についても考えることがすべての人にとって重要だと訴え、「ほかの誰かのツールを使って、どこか別の場所にデータを保存する。普通に考えて、これはよくない考え方だ」と語った。

■SNSの情報は危険性大

 インターネットユーザーは、オンライン検索や地図などですでに大量の情報を放出している。

 最も重要なのは、ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)で、ユーザーは私的なビデオ、写真、あるいは考え方を掲載し、建前上は招待された友人だけが閲覧できることになっている。

 ユーザーのプロフィールに掲載されるデータは、サービスを提供する企業が管理するコンピューター上に保存される。ユーザーが自分の名前をインターネットで検索し、地図ソフトで自宅を検索した場合、名前や住所が企業のデータベースに無制限に保存されることになる。

 クラウドコンピューティングが採用されていれば、インターネット上で提供されたアプリケーションで作成されたドキュメントやスプレッドシートなどのファイルも、SNSに保存される。

「情報がパブリックドメインにあればお仕舞いだ」とコンティー氏は言う。自分のコンピューター上にある情報は法律で保護される可能性があるが、他人のコンピューター上にあるものは、あまり保護されないという。

■追跡されているユーザーの移動履歴

 米司法省は、グーグルでの検索情報を密かに引き出そうとしたことがある。中国政府は、インターネット上で意見を述べる民主活動家の情報を提供するようヤフーに圧力をかけている。

「わたしたちがネット企業に提供している情報は膨大かつ危険で、改善されるより先に悪化する。個人情報を引き渡すすることは、リスク以外の何者でもない」(Conti氏)

 セキュリティーの専門家によると、電子メールやテキストメッセージの記録は通常保存され、また一般的にウェブ上ではユーザーの移動履歴を追跡するソフトウェアが使用されているという。ネット上への広告掲載に使用されるソフトウェアは、より効果的なメッセージを表示するために、ユーザーのアクティビティーを記録する。

「政治活動家やエイズ感染者などがターゲットになる可能性も否定できない」とコンティー氏は主張する。

■企業が消滅したときデータはどうなる?

 また、ネット企業がユーザーのプライバシーを保護しようとしても、裁判沙汰にならない保証はないし、考え方の異なる経営者に取って代わる場合もある。合併したり倒産する可能性もある。

「グーグルがなくなったとしたら?企業が消滅したときにデータがどうなるかは大きな問題だ」。

(c)AFP/Glenn Chapman