【7月24日 AFP】今や、携帯電話があれば歩きながらの電話以外にも写真撮影、地図での現在地確認などができるようになった。将来はさらに、研究者が描く構想が実現すれば、植木鉢で携帯電話を「栽培」することができる日も来るかも知れない。

 携帯電話端末の世界最大手、フィンランドのノキア(Nokia)では、トップレベルの専門家が数年間にわたって未来のユーザーの需要や嗜好(しこう)を調査している。米グーグル(Google)や米アップル(Apple)などの新勢力や、韓国のサムスン(Samsung)やLG、米モトローラ(Motorola)など老舗通信機器メーカーの先を行くための戦略だ。

 ノキアは2007年、研究・開発に純売上高の約11%にあたる56億ユーロ(約9500億円)、従業員3万人以上(全従業員の約27%)を投じた。

 また、ノキア研究センター(Nokia Research CentreNRC)は、世界規模の研究機関で、英国、米国、中国、スイス、フィンランドなどで活動を行っている。

 同センターはAFPに対し、実際に開発しているものについては「企業秘密」として明らかにしなかったが、「製品の特許申請を2015年に行い、実際の製品化はそれより先になる可能性がある」と示唆。「いつの日か、植物のように植木鉢で携帯電話を栽培したり、新しい携帯電話を印刷することも可能になるかも」と冗談を述べた。

■研究センターの発明例
 
 同センターの発明の1つに、現在は市場に出回るすべての携帯電話に搭載されている、内蔵型アンテナが挙げられる。

 最近の例では、「Sports Tracker」がある。これは、GPSセンサーを使用してスポーツ愛好者の位置、速度、距離、時間を記録し、ウェブサイトに情報を保存し、ほかのユーザーと共有できる。このソフトウエアは、160万回以上ダウンロードされており、約7万5000人が利用しているという。

 さらに今年2月には、英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)と共同開発したコンセプトモデル「Morph」を発表。今後7年で、フレキシブル素材や表面の自己洗浄機能などが搭載された携帯電話の実用化を目指すという。

■「今日の選択や決定が未来を作る」

 しかし、実績が出るまでに年月を要し、また成果が出ない可能性もある研究に、同社が多額の資金を投じる理由は何だろうか?

 フィンランド・トゥルク経済大学(Turku School of Economics)未来研究センターのSirkka Heinonen教授は、「未来の研究は、企業が将来のリスクや可能性を評価する際に役立ち、またライバル社との競争で優位性を保つ上での時間的な余裕を保つことができる」という。

 同教授は、未来研究の3原則として、「正確には予測できない」「運命付けられていない」「人々が未来に影響を与える」を挙げ、「今日の選択や決定が未来を作る」と述べた。

■さまざまな可能性を研究中

 ノキアは、自社の未来を真剣に考えている。

 ノキア研究センターは、「ノキアは製品の多様化だけでなく、多様化するための新サービスを調査している。また、研究センターはまったく異なる何かを探し求めており、家事代行ロボットや医療診断システムの開発をも模索している」という。

 同センターによると、ノキアは現在、医師が近くにいない地域で便利な「病気の診断機能が付いた携帯」の試験を実施しているという。

 また、米カリフォルニア(California)州パロアルト(Palo Alto)では、携帯電話に搭載されているGPSセンサーで、交通状況が予測できるかを研究中だという。

■新興国の重要性高まる

 ここ数年、中国やインドなど新興国における携帯電話などの消費財の需要は、ノキアの成功における重要な部分を占めてきた。前年、同社の売上げの約20%は、この2か国によるものだった。

 同社では、顧客のニーズによりよく応えるため、将来の新興国について理解を深める研究を実施している。

 インドのIT中心地バンガロール(Bangalore)では、同社のチームが地元のSrishti School of Art, Design and Technologyやマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディア研究所と共同で、都市化が社会に与える影響と、そこでの科学技術の役割について研究しており、技術的な背景知識を持たない人々の情報格差を縮める方法も模索している。(c)AFP/Terhi Kinnunen