【7月22日 AFP】歌手アヴリル・ラヴィーン(Avril Lavigne)のマネージャーとして知られ、レコード会社「Nettwerk Music Group」の創設者でもあるカナダ音楽界きっての大物、テリー・マックブライド(Terry McBride)氏がAFPのインタビューに答え、「海賊版も怖くない」と今後の業界戦略を強気で語った。

■世界的なCD販売不振、海賊版や違法ダウンロードが影響

 海賊版やインターネットからのダウンロードでCDの売れ行き不振に悩む音楽業界だが、同氏によれば、違法なダウンロードを阻止することばかりに取り組むのは不毛で、短絡的だという。

「楽曲を所有しているのはレコードレーベルでも、販売元でも、ましてやアーティストでもない。楽曲や詩に付いてくるのはファンの感情であり、音楽業界に必要なのはファンの行動を利益に変えることだ」。こう語るマックブライド氏は、少数のミリオンセラー・アーティストや著作権保護に頼る時代遅れの手法に代わる何かがレコード業界には必要だと論じる。

 インターネット上で楽曲をダウンロードできるようになり、無料のダウンロードも増え、CDの売れ行きは世界的に落ち込んでいる。

 音楽情報専門チャンネルMTVがアジア12か国で最近行った調査によれば、15-24歳で音楽を違法にダウンロードした経験がある人は77%で、料金を払ってダウンロードしたことがある人は59%だった。

 こうした海賊版のまん延に対し、法的な対処も取られている。特に中国では、違法なダウンロードが80%といわれるが、この数値を少ないとみなす意見もあるほど、海賊版が深刻な問題になっている。

 同国のインターネット検索エンジン大手の百度(Baidu)は、違法ダウンロードのリンク先をサイト上に掲載して多額の広告料を取っていたとして、大手レコード会社から訴えられた。

■アーティストの著作権と無料提供の共存を模索

 しかし、この百度のやり方は他社にとっても、模範となるかもしれない。今年初め、米経済紙ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street JournalWSJ)は、米インターネット検索エンジン大手グーグル(Google)が中国で無料の音楽配信を目指して、大手レコード会社との提携を検討中だと報じた。
 
 マックブライド氏は、この手法は訴訟に力を注ぐよりも効果的だと語る。そして、音楽業界の新たな収益源とならずに、訴えられて消滅してしまった米国の音楽共有サイト「Napster」の例に言及した。

 香港で行われた音楽業界のカンファレンス「MusicMatters」で、マックブライド氏は、著作権はアーティスト本人のレーベルのような1か所だけに持たせ、市場戦略の中心に著作権を残すとともに、その一方でアーティストが自分の楽曲の無料交換は歓迎する形にするのが解決法だと語った。「著作権はバラバラにあるよりも1か所に置いておいたほうが価値が出るし、著作権の一部は無料で開放したほうが、残す部分に価値が出て利益になる」

 例えば、楽曲は無料で提供する一方、それが広告効果を持てば、コマーシャルやテレビ番組のBGM、ウェブサイトの広告や、保護技術を使用した携帯電話の着信音に利用されるなど、長期的に新たな販売チャンスが生まれると、マックブライド氏はいう。

 マックブライド氏は自らが3年前に確立したこのビジネスモデルが、すでにNettwerk Music Groupで効果的に作用していると語る。同レコード会社に所属する歌手サラ・マクラクラン(Sarah Mclachlan)やバンドのベアネイキッド・レディース(Barenaked Ladies)は、膨大なCDを販売するのと同様の利益を上げているというのだ。

「我々は年々、価値ある著作権を積み重ね、良いビジネスモデルを作っている。周囲の音楽業界が縮小する中、我々はさらなるアーティストと契約を結んでいる」

■A・ラヴィーン皮切りに中国市場進出に野心

 こう語ったマックブライド氏は、中国でも高い人気を誇る数少ない欧米歌手の一人、アヴリル・ラヴィーンをきっかけに、中国の音楽市場に参入したいと語った。「アヴリルは今後10年間の我々の計画の先陣を切る。彼女は現時点で、中国では最も人気のある欧米の歌手だ」

 レコード会社大手「RCA」とも契約しているラヴィーンだが、CDや自身のホームページなどに関してはほとんど自分で管理している。今年は中国でのツアーも計画しており、Nettwerk Music Groupが中国から広告を募集し、ラヴィーンの中国語ホームページを準備している。

 マックブライド氏によれば、これまでのラヴィーンの中国でのCD売り上げは22万5000万枚。これは海賊版が横行している同国では非常に多い数字だ。さらに携帯電話の着信音としては、250万ダウンロードを記録している。

 マックブライド氏はラヴィーンの楽曲の無料ダウンロードは、そのほかの収入のための広告だと考え、大手レーベルもこの手法を学ぶべきだと語る。「大手レコード会社の重役たちだって、著作権法を破ってきたんだ。十代のころに音楽を録音してガールフレンドに渡していただろう」

 過去にはレコード会社がレコードの売れ行きを危惧(きぐ)し、ラジオでの楽曲放送を禁止しようとしたことがあったとマックブライド氏は指摘した。(c)AFP