【6月24日 AFP】高レベルの大気汚染が、20世紀の大半の期間にわたり、北大西洋のハリケーンなどの熱帯性低気圧の発生頻度を減少させたという研究論文が23日、英科学誌ネイチャージオサイエンス(Nature Geoscience)に発表された。

 英気象庁(Met Office)の研究者らが行った今回の調査では、人類が気候に与えた影響の証拠に加えて、熱帯性低気圧と「エアロゾル」との関連性が明らかになっている。エアロゾルは、気体中に浮遊する微小粒子状物質を表す科学的用語で、塵(ちり)を多く含む火山噴煙、雲、霧などの自然の形態で発生するだけでなく、石炭や石油を燃焼させた際に出るすす粒子など人工的に発生するものもある。

■人工エアロゾルの排出量増加期間に熱帯性低気圧の発生頻度が低下

 研究では、北米と欧州で主に化石燃料を燃やして発生する粒子に着目した。研究者らは、1860年から2050年の期間を対象にした気象シミュレーションを作成し、北大西洋全域で人工エアロゾルの排出量が増加した期間に、熱帯性低気圧の発生頻度が著しく低下したことを発見した。

 論文の共著者、ベン・ブース(Ben Booth)氏は「20世紀の大半を通して(特にエアロゾルの)人為的排出量が増加していることにより、ハリケーンの活動が抑制されていることが明らかになった」とAFPに語る。「人為的に排出されたエアロゾルの冷却効果が、気象に対して従来の理解よりも重要な地域的影響を及ぼしてきた可能性がある」

 論文によると、エアロゾルは太陽光線を反射して雲の輝度を変化させるが、これは太陽熱が海面にどの程度投射されるかに影響するという。海水の温度上昇はそのまま、熱帯性低気圧のエネルギーになり、極限状態では破壊的なハリケーンを発生させる場合もある。

 1980年代以降の汚染対策や大気の質の向上への取り組みによって、エアロゾルのレベルは低下したが、逆にハリケーンの活動を増進させる結果になったことが研究で明らかになった。

 ブース氏は「この20年間に工業エアロゾルを除去したことは、人間の健康に有益であるだけでなく、サハラ砂漠南縁に位置するアフリカのサヘル(Sahel)地域で1980年代の干ばつ以来の雨が戻ったことにつながった一方で、大西洋のハリケーン活動の増進に寄与した可能性がある」と電子メールで述べている。

 論文の著者らによると、エアロゾルと大西洋の熱帯性低気圧との関連を明らかにしたのは、今回の論文が世界初だという。研究チームは、将来的に熱帯性低気圧の発生頻度に最も大きな影響を及ぼすのは、エアロゾルよりはるかに長寿命で、地球温暖化をもたらす温室効果ガスだと主張している。(c)AFP