【6月8日 AFP】海洋の食物連鎖で必須の存在である小さな藻類を調査する米航空宇宙局(NASA)のプロジェクトで、これまで予想もされていなかった場所で大量の植物プランクトンが発生していることが明らかになった――北極海の氷の下だ。NASAによるこのプロジェクトでは、多くの海洋生物にとって重要な食物源となっている植物プランクトンを衛星と実地計測によって調査している。

 アラスカ沿岸沖のチュクチ海(Chukchi Sea)の氷を調査サンプルとする目的で、米沿岸警備隊(US Coast Guard)の砕氷船ヒーリー(Healy)に同乗したNASAの調査チームは、厚さ0.8~1.3メートルの氷の下に「著しく大量の」植物プランクトンバイオマスを発見した。その量は一般海域で見られるものの約4倍だったという。

 米スタンフォード大学(Stanford University)の科学者でチームリーダーのケビン・アリゴ(Kevin Arrigo)氏は、氷下の植物プランクトンの大量増殖(ブルーム)は100キロほど広がり氷棚にも達しているとし、また見た目については「豆スープ」のようだと記者団に説明した。

「全く予想だにしていない事態だったために、チームの全員が驚いた。調査を25年間続けてきたなかで、これほど集中する植物プランクトンのブルームは目にしたことがない」(アリゴ氏)

 アリゴ氏によれば、庭でトマトを栽培するのと同じように植物プランクトンも日光を栄養として成長するため、日光が届きにくい厚い氷の下では大量に繁殖しないと考えられていた。

 本調査は、「北極圏内の太平洋における生態系と化学現象に対する気候の影響(Impacts of Climate on Ecosystems and Chemistry of the Arctic Pacific Environment)」、通称「ICESCAPE」として2010年と11年の6~7月のそれぞれ2回にわたって行われた北極海遠征の一環。
 
 これまで北極では氷が溶解するまで単細胞生物は生息できないと考えられていたが、今回の発見により、荒涼とした冷たい場所と考えられてきた北極圏の生態系については、根本的な理解の見直しが迫られるだろうとアリゴ氏は言う。

 最新の調査結果は7日の科学誌サイエンス(Science)に掲載されている。(c)AFP/Kerry Sheridan

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