【2月9日 AFP】人間による海中の騒音が、クジラにとってストレスの原因になっていることを突き止めた調査結果が8日、学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に発表された。クジラとは何の関係もないと思える2001年9月11日の米同時多発テロが、このことを明らかにしたという。

 米ニューイングランド水族館(New England Aquarium)のロザリンド・ローランド(Rosalind Rolland)氏が率いる研究チームは、2001年7月からタイセイヨウセミクジラが集まって子育てをするカナダのファンディ湾(Bay of Fundy)で、訓練したイヌを使って海面に浮かぶクジラのふんを収集した。この作業は毎年6週間行われ、2005年まで継続された。

 クジラのふんはホルモンに関連した化学物質、グルココルチコイドを含んでいる。グルココルチコイドは動物が敵に追われたり、飢えや干ばつに直面するなど危険を感じた際に分泌され、その濃度は1~2日、時には数時間のレベルで、ストレスの度合いに応じて変化する。

 ストレスによってグルココルチコイドが分泌されると、ためていたエネルギーを引き出して危機に対処できるという利点があるが、その状態が長期間続くと、発育不全、免疫システムや生殖能力低下などの悪影響がある。

 2001年、研究チームは米同時多発テロの数週間前から調査を行っていた。同時テロの発生後、海中の騒音レベルが落ちたことに気づいた研究チームは、騒音がクジラのストレスの原因かどうかを明らかにする機会であることに気づいた。その海域の海上交通量は、同時多発テロ後に急減少した後、少しずつ回復していた。

 クジラのふんに含まれるグルココルチコイド濃度の変化を調べたところ、騒音レベルの変化を完璧に反映していたという。陸上の動物の研究で、観光や交通、スノーモービルなどによる騒音が動物のストレス源になっていることが示されている。船舶や海底油田の掘削に用いられる音波探知器などにより、海中の騒音は過去50年間にわたって拡大してきた。

 北大西洋の沿岸近くに生息するクジラは、船舶との衝突や魚網がからまって死ぬ例が増えており、絶滅が危惧されている。論文は、大型のクジラの2大死因になっているこれらに比べて海中の騒音による影響は目立たないが、沿岸に近い海域に住むクジラの生存に悪い影響を与えているかもしれない、と結んでいる。(c)AFP/Marlowe Hood