【9月7日 AFP】地球温暖化によって西南極の海底が真っ赤な深海ガニで埋め尽くされるかもしれないという論文が、7日の学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載された。

 ちょうど5年前に発見された、「Neolithodes yaldwyni Ahyong and Dawson」という名前のこのカニは、今回見つかるまでは西南極の反対側、ロス海(Ross Sea)でしか確認されていなかった。

 このカニは食欲旺盛でえさになる小さな生物を求めて海底に穴を掘るため、「生態系のエンジニア」という異名を持つ。大群になると海の食物網全体に影響を及ぼす可能性もある。

 ハワイ大学マノア校(University of Hawaii at Manoa)のローラ・グランジ(Laura Grange)氏率いるチームは、南極半島沖の生物多様性に関する調査の一環で、遠隔操作の探査船を大陸棚の端から120キロ沖、ウェッデル海(Weddell Sea)のパルマー海淵(Palmer Deep)に下降させた。

 海底を約2キロにわたって探索したロボットカメラは、42匹のカニを確認した。すべて850メートルより深い海底にいた。この結果から、この海淵の約14キロ×8キロの範囲にいる同種のカニは150万匹を超えると推定され、タカアシガニの漁場として有名なアラスカや大西洋の英領サウスジョージア(South Georgia)諸島などに匹敵する生息密度になるという。

 カメラはこのカニの採餌活動によって荒れた海底の様子も捉えていた。甲羅の幅が10センチ程度のこのカニは、柔らかい泥の海底を深さ20センチほどまで掘り進み、そのときに堆積物の塊をあたりに撒き散らす。また、潜水ロボットは卵をもった雌も見つけたことから、繁殖していることもうかがえる。

 カニがいた場所の平均水温は1.4度で、水温が冷たいもっと浅い海底ではまったく見つからなかった。地球温暖化で南極半島の深海400~600メートルの大陸棚が温まり、このカニが生息できる海域が拡大したものと推測されている。
 
 海底の堆積物の調査によると、西南極半島の水温の低い浅い海域には、タカアシガニの仲間は過去1400万年間、生息した痕跡がなかった。

 一方、これまでの調査で、南極大陸の大陸棚の海水温は10年間に0.1度の割合で上昇していることが分かっている。これまでは冷たい海水温によってこのカニの生息地の拡大が阻まれていたとすれば、「このカニたちが今後10~20年間で大陸棚までやってきてもおかしくない」と論文は警告している。(c)AFP