【8月1日 AFP】米国西部をさまよい暮らしている無数の野生馬「ムスタング」たちを安楽死させようという案に対し、動物愛護団体などが怒りをあらわにしている。活動家らは、政府の失策の代償を払っているのは馬たちだと糾弾している。

 米国西部には10州にまたがり、約3万3000頭の馬が野生状態で生息している。6月にこれらの馬の削減を掲げた米土地管理局(US Bureau of Land Management)では、6000頭まで減らす必要があるとしている。一方で、政府財源による収容施設にも3万3000頭がいると推計されている。

 連邦機関が野生馬の安楽死を提唱したのは、1971年に連邦動物福祉法が施行されて以来初めて。この法の施行時、議会では野生馬たちについて米国「西部の歴史および開拓者精神の生けるシンボル」と表現した。

 現在連邦当局は、干ばつや森林火災の打撃を受けている公営の放牧地や緑地を健康に維持するために、野生馬の削減は欠かせないと主張する。また、野生馬関係の予算の大半は収容施設の維持にまわっており、飼料価格の高騰とともにコストはかさむ一方だという。

 さらに、連邦が音頭を取った野生馬の引き取りプログラムへの応募者が、米経済の失速により減ってしまったことも、公有地における野生馬増殖の原因となっているという。1頭につき年間125ドル(約1万3500円)といわれるムスタングの飼育だが、飼料および燃料価格の高騰はこれに拍車を掛けている。

■管理不足のツケから増える一方のムスタング

 しかし、野生馬を殺したり、処分業者に売ろうという動きに、動物の権利を擁護する活動家たちは「不必要で回避されるべきことだ」と怒りを表している。

「全米人道協会(Humane Society of the United States)」のHolly Hazardさんは、野生馬の繁殖問題は「人工的な管理の失敗だ」として土地管理局の提案に猛反発している。Hazardさんいわく、避妊なども取り入れた馬の頭数管理方法を動物愛護家たちが長年提案してきたにもかかわらず、動きの鈍かったのは当局だと批判する。

 アイダホ(Idaho)州中東部で野生馬の群れを5年間撮影してきた写真家のElissa Klineさんは、余剰な野生馬を収容するという政策にも反対する一人だ。動物を性別や年齢で区分けするプログラムは、子馬が親馬から離されることもしばしばで「心が痛む」という。

 しかし、1万8000頭が生息するネバダ(Nevada)州の土地管理局関係者は、当局としては収容施設には入れたくないのが本音だという。「理想を言えば、3万3000頭を引き取ってくれる人が現れてほしいところだ」。ネバダ州の野生馬の数は現在、土地の管理者らが環境的に理想とする頭数よりも40%も多い。

 強力な農業ロビー団体、Nevada Farm BureauDoug Busselman氏は、野生馬の積極的な管理を渋ってきた連邦の土地管理局に責任があると非難する。

 しかし、土地管理局に32年間勤務し、過去5年はアイダホ州の野生馬管理プログラムの責任者を務めているTom Miles氏は、政府の対策としてはどう転んでも「成功のない」仕事だという。「われわれは土地の多角的な、そして大抵は多様な使用を管理しているが、すべての用途に適切な土地を提供するのは困難。誰かの利益に偏りなく見える計画ができたような時でさえ、必ず納得できない者が出る」

 西部の象徴が処分されてしまうのかどうか、ムスタングたちの運命は年内に決定される。(c)AFP/Laura Zuckerman