【6月23日 AFP】1986年に商業捕鯨の一時禁止(モラトリアム)が実施されて20年以上が経過するが、専門家らはクジラの個体数はほとんど回復していないと指摘する。

 23日からチリのサンティアゴ(Santiago)で開催される国際捕鯨委員会(International Whaling CommissionIWC)の総会では、モラトリアム導入後のクジラの個体数が1つの焦点になる。

 モラトリアム導入後も、日本、ノルウェー、アイスランドは、ミンククジラやザトウクジラなどを年間2000頭以上捕獲してきた。これら捕鯨国はIWCに対し捕獲枠を要求してきたが、反捕鯨国はこれを拒否。モラトリアムの順守を訴えている。

■個体数が増えていても注意が必要

 一方で、一部の種類が絶滅の危機に瀕しているというのは各国の一致した意見だ。鯨類保護団体(Whale and Dolphin Conservation Society)によると、セミクジラ、北大西洋セミクジラ、コククジラは、過去70年の保護活動にもかかわらず数百頭にまで減っているという。アイスランドの海洋研究所は最近、ミンククジラが2001年以来「激減」したという2007年の調査結果を発表している。日本とノルウェーが2007年に捕獲したミンククジラは1600頭を超える。

 さらに、個体数が数千頭にのぼり毎年3-8%増加している種でも危機を脱しているわけではなく、本来の個体数に戻すには数十年が必要だと指摘する科学者もいる。パリの国立自然史博物館の海洋生物学者でIWCフランス代表団の1人、Jean-Benoit Charrassin氏は、シロナガスクジラの個体数は1970年代の400頭から2200頭に回復したが、これでも本来の個体数の1%に過ぎないと言う。

 科学者や反捕鯨団体は、個体数が回復しつつあるクジラについても商業捕鯨には反対している。

■「クジラは精神的に疲れている」

 クジラが直面している問題は商業捕鯨だけではない。鯨類保護団体は、漁船との衝突、漁網に絡まる危険、汚染や生息域の環境破壊なども考慮に入れるべきとしている。気候変動の影響も無視できない。温暖化による海洋の酸性化は、クジラの主食であるオキアミを激減させる。甲殻類が酸性化を食い止めてくれるとしても、養魚場の増加によりオキアミはトン単位で消費されている。

 1986年のモラトリアムを推進したフランスの動物学者Yves Paccalet氏は、数世紀にわたる人類の攻撃により、クジラは精神的に疲れていると指摘する。個体数が少ないと、じゃれ合ったりふざけ合ったりする仲間を見つけることができず、憂鬱になって交尾もしなくなるという。「クジラを放っておいたらクジラは増えない。手を施さなかったら減少傾向は加速するだろう」(c)AFP/Marlowe Hood