【4月18日 AFP】大量のゴミが浮かぶ黒くよどんだ運河と道路により隔てられた、高床式の小屋が立ち並ぶスラム街ムアラバル(Muara Baru)とその向かいの高級自動車BMW販売店。インドネシアの首都ジャカルタ(Jakarta)に見られる両極端な光景だが、2025年12月6日には共通の運命にさらされるという。

 世界銀行(World Bank)の調査報告によると、早急に対策を取らない限り、スラム街もBMW販売店も1200万の人口を抱える海辺の街の大半も、すべて水没する。

 低地ジャカルタに18.6年おきに訪れるとされる、土地の大半を飲み込むに十分な海面上昇の次の発生日を、専門家らは2025年12月6日と特定した。

■水没をもたらす最大要因

 気候変動は海面上昇をもたらすが、ジャカルタ水没の主因は野放図な開発による地盤沈下だと報告書は指摘する。

 国連(UN)の気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate ChangeIPCC)の予想では、水面上昇はおよそ5センチ。だが世界銀行は、山脈と海岸に挟まれた平地にあるジャカルタの地盤沈下が40-60センチに達するとしている。

 適切な防御策が取られなければ、2025年には海水は海岸から5キロ内陸にある大統領府まで達し、市内の歴史地区以北は完全に水没する。

 12月6日が潮汐周期のピークとなるが、それ以前にも多数の洪水が発生することが予想されるという。工場、ホテル、高級住宅などの建設に際し地下水利用のために行われる掘削が、問題を悪化させているのだ。

 世界銀行は地下水のくみ上げを中止するよう要請。これを受け、市当局は地下水の価格を引き上げたが、事態はほとんど好転していない。地下水問題に何の策も講じなければ、2025年までにはジャカルタの一部が5メートル沈下する。

■最大の被害者は?

 北側に海が迫るムアラバルのスラム街で、ジャカルタの未来をかいま見ることができる。前年の洪水では、最高2メートルの高さまで水が押し寄せた。

 この地区に日陰を作っていた数少ない樹木は、長い間水に漬かっていたために今では枯れたり葉がなくなったりしている。

 ムアラバルは隣接する高層ビルや高級住宅、大規模ショッピングモールなどによって、海辺へと追いやられている。飲料水はほとんどない。

 市当局者によると、ジャカルタの上水供給率は60%。上水供給事業は1997年にサービス向上を目指して民営化されたが、2007年までに供給率を75%まで引き上げるという公約は果たせていない。

 これにより多くの市民には、前よりも高くなった水を買う、井戸を掘る、盗むといったわずかな選択肢だけが残された。

 ムアラバルに住む65歳の女性と70代の男性は毎日、水差しをいくつも載せた手押し車を押して坂を下り、水をくみに行く。1日に3往復して、余った水を近隣の住民に売っている。日に最高2万ルピア(約220円)のもうけになるそうだ。

 常に洪水の脅威にさらされているが、収入も少ないため、ムアラバルにとどまらざるを得ないという。「事態は深刻。海からの洪水にいつも怯えているから眠れない」と女性は語る。

 ムアラバルの境界にまで押し寄せたゴミだらけの運河こそ、市の無秩序な開発の結果だ。

 巨大なビル群が天然の排水路に取って代わり、ゴミが水路をふさぐ。その結果、雨期には地面から水があふれ出る現象が起きる。

 ジャカルタの排水システムは、オランダの植民地時代に作られたものだ。インドネシアに住む世界銀行の都市基盤部門責任者は、現行の排水システムは市の急速な成長に耐えられないとし、「(当時のオランダ人が)25年ごとに話題にしていた規模の洪水が、毎年起きている」と指摘する。(c)AFP/Aubrey Belford