【12月25日 AFP】希少種のインドライオンの保護に成功したインドで今度は、生息域への人間の侵入や密猟など新たな課題が浮上しつつある。

 インド西部グジャラート(Gujarat)州のギル(Gir)野生生物保護区でのインドライオン生息数は1913年には20頭だったが、現在では350頭以上まで増加した。

 インド野生生物保護協会(Wildlife Protection Society of IndiaWPSI)のDaval Mehta氏は、ギル保護区でのライオン生息数の増加が問題を引き起こしていると指摘。以前の縄張りを必死に取り戻そうとするライオンたちと、人間との衝突が発生しているというのだ。

 この問題が認識されたのは、今年1月から11月までに、30頭以上のライオンが死んだことに端を発する。この数は一年間の死亡数としては過去最多。主な死因は、ふたのない井戸への落下、作物を守るために農家が設置した電気さくへの接触、交通量の増加などだという。

 ギル保護プログラムを監視するBharat Pathak氏によると、ライオンに人間との間の「種の調和」を確保する活動が進行中で、地元住民に対し、ライオンの行動に敏感になること、また保護区への侵入禁止を呼び掛けている。このほか、自然教育プログラムの実施や、管理下でのライオンの行動観察なども実施されている。

 概して、インドライオンはアフリカライオンより小さく、温厚な性質を持つ。狩猟により数が減少し始めた1800年代以前には、インドには少なくとも1000頭のインドライオンがいたという。

 専門家によると、縄張り意識の強い雄ライオンが生き延びるためには、少なくとも20平方キロの土地が必要だという。2005年の調査によると、ギル保護区では87頭の雄ライオンが狭いスペースを奪い合っているという。

 WPSIのMehta氏はギル保護区が1970年代以降拡張されていないことに触れ、「ライオンを守るためには保護区の拡大が必要だ」と主張している。

 また、昔から後を絶たないライオンの密猟も重要な問題だ。3月には8頭のライオンが密猟で殺された。

 かつてはマケドニアからイエメン、イランを経由してインド亜大陸まで生息していたインドライオンは、現在ではインドにしか生息していないという。「だから保護の取り組みを続けることが急務なのだ」とPathak氏は語る。「インドライオンの個体数は回復しつつあるが、まだ国際自然保護連合(World Conservation UnionIUCN)の『絶滅のおそれのある生物種のリスト』から除外されていない」

 ギル保護区でのライオンの生息数が回復したことで多くの問題が発生していることを考慮し、WPSIは保護区の移設を提案しているが、政府は取り合っていない。

「何年もかけてようやく達成した結果を無駄にしないことが重要だ」とWPSIの代表Belinda Wright氏は指摘する。(c)AFP/Elizabeth Roche