【テルアビブ/イスラエル 22日 AFP】スプーン曲げで有名な超能力者を自称するユリ・ゲラー(Uri Geller)氏をめぐり、イスラエル国内のマジシャンの間で論争が巻き起こっている。

論争の発端となっているのはゲラー氏が自らの後継者を選ぶ番組「後継者(The Successor)」。昨年放送開始されて間もなく視聴率40%近くを出す人気ぶりをみせた。後継者候補の参加者らは100万人を超える視聴者の前で、透視や時計の針止めなどのパフォーマンスを披露した。

■私は“手品師”じゃない

AFPとのインタヴューの中でゲラー氏は、同番組にインチキは一切無いことを強く主張。番組に参加した後継者候補らは奇跡を起こすような超能力を実際に有していると述べた。

「私は“手品師”ではないし、これまで一度たりともそうであったことはない」とテルアビブ市内のホテルの一室の中でゲラー氏は語った。同氏はかつて「ジェット機中の乗客の走り書きメモが頭の中で見える」と主張したことがある。

「私は自分の超能力を謎めいたままにしている。かつては人々にひけらかしていたが、今は相手の判断に任せている。だから私は否定も実証もしない」

■人々は希望を求めている

現在ロンドン郊外のマンションに住むこの60歳になる細身の億万長者は、同番組がイスラエルの人々に対し、辛い現実からの気晴らしと共に、生きる喜びを与えていると主張。

「番組の人気は、人々がこの国の厳しい状況とレバノンとの戦争にウンザリしていることを反映している。人々はエンターテイメントのみならず生きる希望を求めている」と語った。

1月に決定する後継者を、ゲラー氏は「イスラエルの親善大使にさせることを考えている。私が何年もやっていたようにね」

■トリックは明白

一方、同番組の放送直後から、国内外の大勢のマジシャンから不正の声が上がった。

イスラエルのベテラン・マジシャンDandi Asrafさんは同番組で披露されたパフォーマンスは見え透いていると言う。「確かに番組はとても面白いよ。ただ全部トリックであることは明白だ。超能力などこの世には存在しない」

また、マジシャンのEliron Tobyさんは「ゲラーのようなペテン師がこうやって何年も人々を騙し続けられてきたことがとても悲しい。“you can’t fool all the people all the time(全ての人たちを常に騙すことはできない。)”という諺が否定された気分だ。」

イスラエルのマジシャン協会は、来週にもこの問題についての協議を行う予定。

■巨額の富と名声

テルアビブの貧しい家庭に生まれたゲラー氏は、既に幼少期に自分の持つ特別な力に気づいたという。

しかし彼の今日の世界的な名声は、単にこれまでたくさんのスプーン曲げをしてきたことや念力でロンドンのビッグベン時計台の針を止めたからだけではなく、ダウジングやテレキネシスと言われる力を使って、油田や金銀を探し当て巨大な富を手にしたことによるところが大きい。

ゲラー氏はこれまで米中央情報局(CIA)やモサド(Mossad)などのインテリジェンス機関に協力してきたと言う。米国の警察と協力して連続殺人犯の追跡を行ったとも話している。

■揺れるマジシャン界

これまで何人もの“自称”超能力のインチキを暴いてきたことで世界的に有名な米国出身のJames Randi氏は、未だゲラー氏に対し不正だと表明ないイスラエルのマジシャン協会を強く非難した。

「ユリ・ゲラー氏は自分が超能力者だと主張し、イスラエル国民を騙している。」とRandi氏は同協会会長のDalia Peledさん宛の手紙の中で書いた。

「マジシャン協会の会長であろう方が、ゲラー氏のスプーン曲げや透視を信じているなら私は理解に苦しむ。彼女がもしそれを本当に信じているのならば、彼女は子供向けの魔法本に言及されなければならない」

「だがもし彼女がそれをインチキだと気づいているのならば、そのような態度は非倫理的であり、プロ・マジシャンの名誉を傷つけている」

これに対しPeled会長は「同番組は娯楽番組であり、ショーの中で披露されたパフォーマンスが超能力によるものでないことを視聴者は理解していると、我々協会一同は信じております」と返答した。

ゲラー氏の超能力の真偽をめぐる論争は今にはじまったことではない。1972年に出演した米国の人気トーク番組「The Tonight Show」の中で、ゲラー氏はスプーン曲げに失敗している。この際、「力が何ものかに弱められた」と主張している。

また、科学者の間でも、ゲラー氏の超能力の真偽をめぐり意見が分かれている。ゲラー氏は1972年にスタンフォード大学と、後にイスラエルのワイツマン科学研究所で計2回のメジャーテストを受けている。しかしテスト結果からは確証が得られず、懐疑論者からはテスト方法に欠点があったとの声が上がった。

■論争“ありがたいこと”

ゲラー氏は、現在巻き起こっている自分と番組に対する論争がありがたいものだととクールに語った。

「この世に悪いPRなど存在しないさ。論争を巻き起こせるということはすごいことだ。私を公に非難し始めたマジシャンの方々は素晴らしい仕事をしてくれた。おかげでさまで、私をさらにミステリアスにしてくれ、そして神秘的オーラを与えてくれた」

ゲラー氏の後継者は数週間後に決まる予定。(c)AFP/DAVID FURST