【3月11日 AFP】一流オーケストラとして高い名声を誇るオーストリアのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(Vienna Philharmonic Orchestra)の事務局長を務めた人物が、かつてナチス・ドイツ(Nazi)の親衛隊(SS)のメンバーとして秘密警察に協力していたことが10日、ウィーン大学(University of Vienna)などの調査で明らかになった。さらに、当時の楽団員の半数がナチ党員だったという。

 調査は、オーストリアがナチス支配下にあった1938~45年にウィーン・フィルが政治的にどのような役割を果たしていたのかを解明するため、ウィーン大学のOliver Rathkolb教授率いる歴史家らの独立グループが行った。

 それによると、1954~68年にウィーン・フィルのマネジングディレクターを務めたヘルムート・ウォビシュ(Helmut Wobisch)氏は、オーストリアでナチスが非合法だった1933年に入党。ナチスがオーストリアを併合した1938年にSSの一員となり、第2次世界大戦終結後、ナチスとの関係を理由に団員資格を停止された。

 こうした経歴にもかかわらずウィーン・フィルの責任者となったウォビシュ氏は1966年、ナチスの青少年教化組織ヒトラー・ユーゲントの元指導者で1946年のニュルンベルク裁判(Nuremberg Trials)において「人道に対する罪」で禁錮20年の有罪判決を受けたバルドゥール・フォン・シーラッハ(Baldur von Schirach)に、ウィーン・フィルの「名誉の指輪」を贈っていたという。シーラッハは戦時中にウィーン大管区指導者で、1942年には楽団の最高栄誉を授けられている。

■迫害されたユダヤ人楽団員ら

 研究では楽団員の経歴も調査し、政治的・人種差別的な理由によって楽団を解雇されたり迫害を受けた団員や、殺害された団員がどれだけいたのかも確かめた。その結果、ユダヤ人楽団員6人が殺害され、10人がナチスの強制収容所に送られていたことが分かった。英国と米国に脱出したユダヤ人楽団員たちは、戦後も二度と故郷に戻ることはなかったという。

 また、ナチス支配下当時の楽団員123人のうち60人がナチ党員で、一般人口におけるナチ党員の平均割合(約10%)を大きく上回っていた。

 オーストリアは12日、ナチス・ドイツによる併合から75年を迎える。今回の研究結果は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の公式サイトから入手することができる。(c)AFP