【6月7日 AFP】「文学はコカイン、音楽はヘロインみたいなもんだ。文学は心を研ぎ澄ますが、音楽は愚かにするもんだ」--こう笑いながら、「死とセックス」をめぐるフランス小説にインスピレーションを受けたと新作について語ったのは、パンク・ミュージックのゴッドファーザー、イギー・ポップ(Iggy Pop)だ。今年62歳、相変わらずのトレードマークの長髪だ。

 5月末にリリースされたアルバムは、フランス人作家ミシェル・ ウエルベック(Michel Houellebecq)の小説『ある島の可能性(The Possibility of an Island)』に触発されたと言い、アルバム・タイトルもフランス語で「前戯」を意味する『プレリミネール(Preliminaires)』とした。その理由は? 「この小説のプロット全体が、死に向かっての前戯だと思った。この年になると自分のやることすべてが死への前戯だ。セックスしようがしなかろうが、働こうが遊ぼうが、追いかけるものが金だろうが自由だろうが、アイデアだろうが皮肉だろうが、時計が刻む音が聞こえる」

 イギー・ポップ--本名ジェームズ・ニューウェル・オスターバーグ(James Newell Osterberg)は、1960年代半ばから70年代にかけ、後にパンクロックやヘビーメタルに影響を与えた米国のガレージロック・バンド、ストゥージズ(Stooges)のリードシンガーだったころ、ステージ上でドラッグを使用したり、自分の体をナイフで切り刻んだりするライブを行い、観客に罵声を浴びせることやステージからダイブすることなどは日常茶飯事だった。

 ソロになってからも、「ラスト・フォー・ライフ(Lust for Life)」「アイム・ボアード(I'm Bored)」「リアル・ワイルド・チャイルド(Real Wild Child)」など、強烈な欲求を歌う作品が目立った。しかし、ウエルベックを取り上げたドキュメンタリー作品のための音楽を依頼されて制作した今回のアルバムは静かなトーンだ。

 ウエルベックの小説について、イギーは「死とセックス、人類の終焉」を描いていると感じたという。ビートジェネレーションを代表するウィリアム・バロウズ(William S. Burroughs)、ジャック・ケルアック(Jack Kerouac)、アレン・ギンズバーグ(Allen Ginsberg)といった小説家や詩人の名を挙げ、自分にとって文学はいつも重要だったと振り返る。

 ジャズとロック、ポップ、ブルースなどが折り重なった新作は「いろいろなスタイルが幅広くあるのは、すごく面白い。録音もボーカルとアコースティック・ギター以外は自分ひとりではやらなかった。ほかのミュージシャンたちにトラックを送って、後から選べるように何トラックか録音を入れて返してもらったんだ。メニューを選ぶみたいだったよ」(c)AFP/Paul Ricard