【2月3日 AFP】「背筋に震えが走る」という表現がこれほどぴたりとくる音楽祭は、ほかにはないだろう。1月10日、11日の2日間、ノルウェーの山々に囲まれた大雪原に、氷でできた楽器の澄んだ音色が響き渡った。

 ノルウェー中央部の山岳地帯にあるスキーリゾート、ヤイロ(Geilo)で、新年最初の満月の夜に合わせて開催される「アイス・ミュージック・フェスティバル(IceMusic Festival)」は今年で4回目を迎えた。

 氷でできた弦楽器や打楽器、吹奏楽器は、氷の質や周りの気温に呼応して、予想もつかない音を奏でる。プロの音楽家が手袋をはめたまま演奏するという光景も、なかなか珍しい。世界でも唯一の同フェスティバルを創始したタリエ・イスングセット(Terje Isungset)氏は「氷は見た目にも、音楽の要素としても美しい。抽象的で冷たいけれども、そこから生み出される音は温かい。(音楽の)すべてを支配しているものは自然だ。氷のクオリティと気温が、音楽の調子を決定づける」と熱く語った。

 ハープ奏者のSidsel Walstad氏は「2度と再現できない音を奏でるなんて、すばらしい経験です」と話した。ハープの弦は通常は47本だが、氷のハープでは18本だ。

 フィドル(ヴァイオリンに似たノルウェーの伝統楽器)を演奏したバイオリニストのNils Oekland氏は「氷のフィドルは、普通のフィドルよりもオリエンタルな音色を出す」ことが、新たな発見だったようだ。

■楽器製作の苦労

 楽器はすべて米国人の氷彫刻家、ビル・コウィッツ(Bill Cowitz)氏が、ミネラルウォーターを凍らせた氷を使って2日間で製作した。 

 弦はナイロン製などだが、そのほかで氷ではない部位は、弦を固定する部分だ。弦は振動すると熱を帯び、氷を溶かしてしまうおそれがあるため、やむをえず通常の金属ではなく「木片」を使った。

 彫刻としての観賞用ではなく、実際に演奏のできる氷の楽器を作ったのは初めてだった。「美しく共鳴するよう軽量化する一方で、強度を保つ必要もあった。とにかく演奏中に壊れないものを作ろうという点だけに気を使ったよ。へんな音が聞こえても、それは通常、演奏者のせいにされるからね」。コウィッツ氏はそう冗談を言って笑った。

 氷の状態や気温の変化で刻々と音が変わるため、おのずと即興演奏となる。繊細なフレーズの中に突然、中途半端な音が混じることも。しかし観客たちの熱狂に水が差されることはない。ある地元の観客は「魔法のようだ」と称賛し、オスロから来たカップルは「こんな音楽は生まれて初めて」と大満足の様子だった。

 そして、音楽祭が終わると、楽器はすべて元の姿に戻っていく。「楽器は自然界のもの。わたしはそれを借りているだけなのです」と、主催者のイスングセット氏はつぶやいた。(c)AFP