【7月22日 AFP】25日にドイツ南部のバイロイト祝祭劇場(Bayreuth Festspielhaus)で開幕する、作曲家リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)の歌劇を演目とした第96回バイロイト音楽祭(Bayreuther Festspiele)が、後継者問題で揺れている。

 5年間の休戦のあと、この音楽祭の運営をめぐる内紛がワーグナーの子孫たちの間でまたもや勃発、音楽祭そのものより人々の関心を集めそうな勢いだ。

 音楽祭の上部組織であるStiftungsratは、9月にこの問題を話し合う予定だという。

 ワーグナー自らの設計に沿って建てられたというバイロイト祝祭劇場で行われるバイロイト音楽祭。第二次世界大戦終結以降、ワーグナーの孫ヴォルフガング・ワーグナー(Wolfgang Wagner、87)と兄のヴィーラント・ワーグナー(Wieland Wagner)が共同で運営してきたが、1966年にヴィーラントが死去したのちは、ヴォルフガングが1人で運営するようになった。

 ヴォルフガングは音楽祭の運営にかたくなに固執。Stiftungsratが5年前に彼を追放しようと企て、最初の妻との子どもエヴァ(Eva Wagner-Pasquier)を後継者にするよう提案したが、それを拒絶。当時、ヴォルフガングは2人目の妻、Gudrunに後を継がせようと考えていたのだ。

 Stiftungsratの提案をはねつけたヴォルフガングは、Gudrunとの間にできた子どもカタリーナ・ワーグナー(Katharina Wagner、29)が後を継げる年になるまで、立場を譲らないと宣言した。

 ヴォルフガングは以来、カタリーナを熱心に教育。カタリーナの時代が訪れるかどうかは、今年の音楽祭のオープニングで試されるだろう。このオープニングで、カタリーナが演出を務める、ワーグナー作曲のオペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー(Die Meistersinger von Nuernberg)』が披露されるのだ。

 公には、カタリーナはバイロイト音楽祭の運営者にはならないと主張し、父親よりもより実利的で、対決を避ける方法を選んできた。

 しかし、メディアのインタビューでは、上部組織が彼女を後継者にと言うのであれば、受ける用意はある、と語っている。

 メディア好きのカタリーナは、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の舞台稽古に報道陣を招いた。オープニング当日の華々しい公開まで、伝統的に作品を公表することのなかったバイロイト音楽祭では、これは前例のない手法だ。

 これまで目立たぬようにしてきたカタリーナの異母姉エヴァは、メディアのインタビューなどをすべて拒否している。

 さらに、カタリーナとエヴァにとってはいとこにあたる、62歳のニケがこの騒動に足を踏み入れてきた。ニケはSueddeutsche Zeitung紙のインタビューで、カタリーナが後継者の候補に挙がることは、「ワイン用の革袋を古いスピリッツで満たす」ようなものだと例え、バイロイト音楽祭の芸術的な家系を台無しにするものだと主張した。

 ニケはヴィーラントの娘であり、カタリーナ、エヴァを含めた3人の候補者の中では、最も知的だとみられている。また、ワイマール(Weimar)で開催される自身の芸術祭「Pelerinages」も運営している。

 一方、エヴァはフランスのエクサンプロバンス(Aix-en-Provence)のフェスティバルに協力しており、カタリーナには実際にオペラの演出を務めた経験がある。

 カタリーナは2002年の『さまよえるオランダ人(The Flying Dutchman)』で演出家デビューを果たし、翌2003年には、ブダペスト(Budapest)で『ローエングリン(Lohengrin)』の公演も行った。
 
 カタリーナはオペラ専門誌Opernglasのインタビューで、ローエングリンを見たヴォルフガングが、今年のオープニングを務めるよう、カタリーナを説得したと明かしている。

 チェーンスモーカーで、ロックバンド、ラムシュタイン(Rammstein)のファンでもあるというカタリーナは、今回のオープニングを務めることは、後継者争いには関係ないという。

 「関連付けて考えられるのは、残念です。全く別の問題ですから」

 しかし、世間はそうは考えていない。

 週刊紙ツァイト(Zeit)には、「今年の音楽祭は、ヴォルフガング・ワーグナーが運営する最後の音楽祭となるのか?」という見出しの記事が掲載された。

 初日の幕が降りるとき、後継者問題にも幕が降ろされるかもしれない。(c)AFP/Simon Morgan