【5月24日 AFP】1937年の悪名高い「南京(Nanjing)虐殺」を扱ったある愛国的な中国映画が、現地で公開されヒットしているが、旧日本軍兵士を初めて人間として描いたとして同国内に怒りも引き起こしている。

 映画は当時の中国の首都・南京の旧日本軍への陥落を扱った『南京!南京!(City of Life and Death)』 (132分)で、陥落に続いて起こった無防備な市民や戦争捕虜の殺害について、生々しい詳細を描いている。

 中国政府が死者30万人と主張するこの虐殺は、同国内外でよく知られているが、今回の映画が新しい点は陸川(Lu Chuan)監督(38)がこの事件を、侵略者である日本軍を含め複数の角度から描こうとしたことだ。AFPのインタビューに陸監督は「ものすごいプレッシャーを感じた。メディアにも観客にも、なぜ日本軍兵士の視点を取り上げることにしたのかと問われた」と語った。

 全編白黒映画の本作品では、登場する旧日本軍兵士たちを、戦争という悲劇にとらわれた普通の人間として提示し、中国でこれまで常にそうみなされてきたような血に飢えた怪物のように描いてはいない。しかし、これが中国の超国家主義者の一部の目には許しがたく映っており、陸監督はすでに少なくとも1件の殺害脅迫を受けている。

 陸監督をそうさせたのは、ただ真実を描きたいという願いと、過去に中国でこの虐殺が扱われてきたような「行き過ぎた」描き方と釣り合いをとりたいという気持ちだったという。「わたしは平和と愛のメッセージを広めたいし、国民の多くはそれに賛成してくれると思う。一部の過激思想の持ち主たちは、どのみち納得しないだろう」

 陸監督は中国国内、数都市をまわったプロモーションから戻ったばかりだったが、ツアー中、特に出演した日本の俳優にとって、時に苦しい場面もあったという。「何日間かまわった後に、これは彼らにとって日々続く『拷問』なんじゃないかとわたしには思え、彼らの安全を案じた。このテーマは中国では極端な描き方をされてきたから、世間も非常に強い反発を示すのだ」。日本人俳優の1人は緊張のあまり、ツアーを途中で切り上げたいと打診してきた。

 批判の一方で、国営映画会社・中国電影集団(China Film Group)の強大な配給ネットワークも手伝い、『南京!南京!』 は1億2000万元(約16億円)を超える大きな興行成績を収めている。

 しかし陸監督は、扱いに慎重さを要するこの虐殺に関し、自国のこれまでの描き方には同意できないが、決して日本人に同情はしないと明言した。「日本政府はこの虐殺について謝罪したこともなければ、一部にはこれが起こったことさえ否定する構えの日本人さえいる」

 陸監督は南京にある軍事大学に通った後に映画監督になったが、過去の描き方とは多少違った視点から南京虐殺を扱う映画制作が許されたことは、中国の進化を表していると思うとも語った。

 しかし、そのほかの敏感な歴史上の事件、文化大革命(Cultural Revolution)や天安門事件(Tiananmen Square Massacre)は依然、中国で立ち入ってはいけないタブーだという。「わたしたちは中国がもっと、もっと開かれるよう前進を続ける必要がある」(c)AFP/Francois Bougon