【5月13日 AFP】(一部更新)今年の第62回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)は、その歴史に新たな一章を刻むだろう。映画史の未来をも方向付けるかもしれない。オープニング作品に、3D映画としては初めて、ピクサー(Pixar)の3Dアニメ『カールじいさんの空飛ぶ家(Up)』が選ばれたのだ。

 1億5000万ドル(約140億円)をかけて制作され、南米を舞台にした同作品は、10本以上の3D映画と6本の3Dアニメを制作した実績のあるディズニー(Disney)の3Dアニメとしては、氷山の一角にすぎない。

 そして今、ハリウッド全体が、3D映画は一時的な流行ではないとして、3D映画の未来に大きく懸けているようだ。

 カンヌ映画祭のディレクター、ティエリー・フレモー(Thierry Fremaux)氏は、3Dアニメは「これからの映画の冒険のひとつ」なので、オープニング作品に選んだと語る。

■3D映画に期待を寄せる映画界

 現代の3D映画は、青と赤のフィルムが付いた紙製の眼鏡をかけ、頭痛や酔いなどの症状に耐えながら見ていた1950年代のものとは違う。

 3D効果を最大限に楽しむには今でも黒っぽい眼鏡をかけなければならないが、21世紀の3Dは頭痛もなく彩やかで鋭い映像を楽しめる。最新のデジタル技術のたまものだ。

 ピクサーのライバル、ドリームワークス(Dreamworks)のジェフリー・カッツェンバーグ(Jeffrey Katzenberg)CEOは、新世代の3Dは、1920年代のトーキー、30年代のカラー映画の出現に続き、映画史に3度目の「革命」を起こすだろうと語る。

 同氏によると、ドリームワークスの今後の新作アニメはすべて3Dで制作されるという。一方、アイマックス(Imax)のグレッグ・フォスター(Greg Foster)氏も3D映画の将来性に期待している。

 映画会社だけではなく、ファンタジーやSF作品を撮る監督たちも3Dに傾いている。

 ティム・バートン(Tim Burton)監督は『不思議の国のアリス(Alice in Wonderland)』を3Dで映画化、ジェームズ・キャメロン(James Cameron)監督は、期待の3D映画『Avatar』を間もなく完成させる。さらに、ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)、スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)、ジョージ・ルーカス(George Lucas)、ピーター・ジャクソン(Peter Jackson)ら各監督も3D映画を企画している。

 さらには、『スター・ウォーズ(Star Wars)』『タイタニック(Titanic)』『マトリックス(The Matrix)』などの大作やディズニーの名作アニメを3Dで復活させようという動きもある。

 ビデオゲームで育った若者や自宅でDVDを見るという人たちを、映画館に呼び戻せるのではないかとハリウッドは期待しているのだ。

■3D映画を待ち受ける障壁

 しかし、革命は容易ではない。この不況の時代に、3D映画を上映するための新たな設備を取り付けるよう世界中の映画館を説得しなければならないのだ。

 エンターテインメント情報誌バラエティ(Variety)に掲載されたディズニー発表の統計によると、3D映画に対応しているのは、全米3万館のうち2000館のみ。米国以外では世界全体で1500館というありさまだ。

 例えばフランスでは7月29日から800の映画館で『Up』が公開されるが、3Dに対応した設備を装備したのは120館のみだ。工事費用をめぐって、映画会社と映画館の間でもめ事も起こっている。また、観客が付ける眼鏡の費用に関しても、映画会社、配給会社、映画館の誰が負担するかの議論が続いている。(c)AFP/Rebecca Frasquet and Emma Charlton