【5月4日 AFP】米国の小さな町では家族の絆は深い。中でも、最愛の息子-架空の息子だが-のために、毎年祝杯をあげるアイオワ(Iowa)州リバーサイド(Riverside)の絆はいっそうだ。

 リバーサイド住民の「最愛の息子」は、テレビと映画の大ヒットシリーズ「スター・トレック(Star Trek)」で、最初はウィリアム・シャトナー(William Shatner)が演じたジェームズ・T・カーク(James T. Kirk)船長だ。今週末にはカーク船長の青年期を描いた新作映画が公開される。

■2228年に生まれるカーク船長の故郷

 リバーサイドの住民たちは、カーク船長が2228年3月22日に生まれるのは同地だと主張する。町内のバーの壁に掛かった飾り板には、カーク船長の母親がカーク船長を身ごもるという場所まで記されている。

 スター・トレックのファンで、町議会議員としてリバーサイドの町おこしを進めてきたスティーブ・ミラー(Steve Miller)氏は「原作者のジーン・ロッデンベリー(Gene Roddenberry)氏が、カーク船長の出生地はアイオワ州の小さな町だろうと書いているが、町名は特定されていない」という。

 ミラー氏はリバーサイドの有力者たちを説得し、同地をカーク船長の未来の生まれ故郷だと宣言させることに成功した。そして原作者のロッデンベリー氏から、リバーサイドを後押しする証明が与えられ、この主張に正当性が加わった。

 それが今から25年前のこと。以来、コミュニティクラブのメンバーたちは3月22日になると町内のバーに集まり、カーク船長のために「ハッピー・バースデー」を歌い、シリーズに登場するロミュラン人から命名した「ロミュラン・エール」(シュナップス、パイナップルジュース、スプライトを混ぜたもの)で乾杯するのだ。

■「トレック・フェスト」を毎年開催

 リバーサイドではさらに毎夏、カーク船長の誕生を祝して「トレック・フェスト(TrekFest)」というイベントを開催する。今年は6月26、27日に開催され、オリジナルシリーズに出演していたスールー役のジョージ・タケイ(George Takei)、ウフーラ役のニシェル・ニコルス(Nichelle Nichols)、チェコフ役のウォルター・コーニッグ(Walter Koenig)らが参加する。

■最新映画にリバーサイドが登場!?

 また、ミラー氏によれば最新作で、リバーサイドの名が特定されて登場するといううわさもある。映画の公式サイトでは、若かりし頃のカーク船長は「アイオワの農家育ちのスリルを求める不良少年」だと書かれている。

 全米公開の前日には、リバーサイド住民のために特別上映会が開催され、リムジンやチャーターバス、スター・トレックをテーマにしたスナック菓子などが用意される。ミラー氏は「映画にリバーサイドが登場することを心から願っている。そうなれば、リバーサイドの存在を確固たるものにできる」と語った。

■「スター・トレック」を認めない人や興味がない住人たちも

 しかし、リバーサイド地区コミュニティークラブ(Riverside Area Community Club)の副会長を務めるティム・ギアリング(Tim Geerling)氏によれば、カーク船長の未来の生まれ故郷としてのリバーサイドを、住民全員が望んでいるわけではないという。

「トレック・フェスト」が当初、酔っぱらいのどんちゃん騒ぎだったことを知る保守派の人々は唯一「スター・トレック」を認めていない。

 それでも、ミラー氏もギアリング氏も、リバーサイドが「スター・トレック」のおかげで世界中から注目されることは肯定的なことだと考えている。数千人が押し寄せる「トレック・フェスト」は、ビジネスとしても軽視できないからだ。

 こんな風に、「スター・トレック」にちなんだ町おこしが盛んな一方で、シリーズ自体に対する関心は驚くほど低いという。「トレッキー(Trekkie)」と呼ばれる「スター・トレック」の熱狂的なファンもまったくいない。「トレック・フェスト」のある実行委員は、「スター・トレック」の大ファンではないことを認め、「それよりも町おこしをしたい」と語った。

「トレック・フェスト」を始まる前、リバータウンでは「リバー・フェスト(River Fest)」と呼ばれる祭りを行っていた。実際、バルカン星人のコスチュームや「スター・トレック」シリーズの上映会がなければ、「トレック・フェスト」も小さな町の夏祭りと大した違いはない。

■それでもやっぱり「スター・トレック」

 しかし、第1回の「トレック・フェスト」から25年経った今、リバーサイドを「スター・トレック」と切り離すことは難しいだろう。町内には「トレックはここから始まる」と書いた看板があり、通りには「スター・トレック」のマークが点在している。カークが育つ場所を示す石碑、エンタープライズ号の模型、カーク船長の木像などもある。(c)AFP/Hieu Pham

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