【5月23日 AFP】世界で最も有名な革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(Ernesto Che Guevara)の盛衰を描いたスティーヴン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)監督作『Che』が第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)のコンペティション部門に出品されている。

 22日に記者会見に臨んだソダーバーグ監督は語った。「チェ・ゲバラは20世紀の最も興味深い人物のひとりだ。彼が人生に2度も、他人のためにすべてを投げ出したという事実に強く心を動かされた。彼は家族すらも捨てた。そのことに大いに興味を引かれた」

 上映時間4時間28分の『Che』は、ゲバラの人生の全く異なる2つの時期を描いた2部作の形を取っている。ソダーバーグ監督は、まずは2部を一緒に、続いて別々に公開してほしいと語った。制作費は6000万ドル(約62億円)。欧州が資金提供し、全編スペイン語で撮影され、中南米の有名俳優がキャスティングされている。

■作品スタイルが原因で興行収入に疑問視

『Che』は今週最も注目された作品の1つとなった。だが、映画の長さ、言語、ドキュメンタリー風の映画スタイルといった要因から、北米での配給はこのまま決まらないのではないかとの懸念も出ている。

 21日遅くに行われた上映会は、途中に休憩を挟んで行われた。休憩時間には、「Che」と書かれた茶色の紙袋入りのサンドイッチとキットカットが配られた。2部すべてを鑑賞し疲れ切った批評家からは称賛の声が聞かれた。

 とはいえ称賛を浴びたのは作品そのものではなく、「スペインのブラッド・ピット(Brad Pitt)」とも称されるプエルトリコ出身の俳優ベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)の演技だった。

 ある南米の批評家から「ゲバラになりきっていた」と評されたデル・トロは、7年に及んだ制作過程に当初から参加。制作チームはこの7年間に、キューバ、ボリビア、パリ(Paris)、マイアミ(Miami)で調査を行い、ゲバラと行動を共にしたゲリラの生き残りに話を聞くなどしたという。

■キューバ革命の成功を描いた第1部

『Che』は他のコンペティション部門出品作と同様ドキュメンタリー形式で、50年前に起こった事件を再現している。

 第1部では、1956年、フィデル・カストロ(Fidel Castro)前キューバ国家評議会議長を筆頭に約80人の仲間とともにキューバに潜入し、当時のバティスタ(Fulgencio Batista)政権打倒を目指すゲバラが描かれている。船でキューバ潜入を図った80余人のうち、入国時に生き残っていたのは十数人だけだった。

 ゲリラ戦の勝利から、1964年にニューヨーク(New York)の国連(UN)本部でキューバ新政権についての演説を行うまでが一気に描かれ、ゲバラが医者からカストロの右腕の指揮官となるまでが年代順に丁寧に語られている。

「確固たる意志を持った男が、人々を鼓舞し導く能力を自分の中に見いだす過程を描きたかった」とソダーバーグ監督は語った。

 第1部は、ほとんど勝ち目がない状況でバティスタ政権の軍隊が乗った列車を脱線させ、街で一番高い建物である教会に入り、狙撃手の隠れ場所を作ったサンタクララ(Santa Clara)での勝利で終わる。

■革命の理想を追い求めついえた最期
 
 第2部は、ゲリラ戦の勝利から7年後の1966年から始まる。カストロ政権に入閣したゲバラだったが、変装して密かにボリビアに渡り、キューバ革命を南米にも広げようとする。

 ソダーバーグ監督は、処刑や弾圧が行われたカストロ政権の最初の数年間を描いていないが、第2部は左派の理想を賛美するものではない。

 ぜんそくを患ったゲバラは、ボリビアの左派からも貧しい農民からも協力を得ることができない。キューバとボリビアのゲリラからなるわずか数十人のゲバラ部隊は、最後には米国の支援を受けたボリビアの特殊部隊に包囲される。高山地帯をさまようが、ゲリラ兵たちは徐々に病気にかかり、食べるものもなく周囲から孤立。地獄への転落の一途をたどるのだ。(c)AFP/Claire Rosemberg

カンヌ国際映画祭の公式ウェブサイト(英語)