【2月25日 AFP】24日に発表された第80回アカデミー賞(80th Academy Awards)で、作品賞に輝いた『ノーカントリー(No Country for Old Men)』に出演したハビエル・バルデム(Javier Bardem、38)が、スペイン人俳優初の助演男優賞を受賞した。
 
『ノーカントリー』はコーエン兄弟(Coen Brothers)が監督したサスペンス作品で、バルデムは偏執狂的な殺し屋アントン・シガー役を演じ、その演技と役柄の髪型で昨年、大いに話題になった。

■バルデムだからこそ可能だった「暴力の象徴化」

 2000年の『夜になるまえに(Before Night Falls)』で演じた同性愛者の詩人から、2004年『海を飛ぶ夢(The Sea Inside)』での四肢麻痺となった主人公まで、多彩な役で評価されてきたバルデムの演技力の幅広さが、今回の受賞で証明された。

 今回の『ノーカントリー』で演じた殺し屋シガーは、240万ドルの大金が入ったスーツケースを持って逃げる主人公、ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン、Josh Brolin)を追うために雇われたミステリアスな「死の天使」。バルデム自身はこの役について昨年のインタビューで「彼はどこからやって来てどこへ行くのか分からず、止めることもできない、暴力の象徴的存在」だと語っている。

「彼には個人的欲望だの存在理由はなく、ただ苦痛と痛みを作り出すだけ。人間的存在ではない。作品のテーマのひとつは、世界が捕らえられているこの巨大な暴力の波で、シガーはルーツを持たず、常に一歩物事を先取り、止めることができないという意味で、そうした暴力を象徴している」(バルデム)

 舞台となったのは、1980年代の米テキサス(Texas)州だが、当時の資料を調査していた監督らがある写真から着想したシガー役の奇妙な髪型も話題になった。

 ジョエル・コーエン(Joel Coen)監督は「シガーに実体を与えつつ、謎めいた雰囲気を失うことなく演じられる俳優が必要だった。だから、ハビエル・バルデムだった」と語った。

 一方、受賞式でのバルデムはオスカーを手に「わたしがあの役を演じるために、そして史上最悪の髪型をわたしの頭に乗せるために熱心に考えてくれたコーエン兄弟に感謝する」と述べた。

■多彩な役、過去にも主演男優賞にノミネート

 バルデムは1969年、スペインのカナリア諸島(Canary Islands)生まれ。母親はテレビ女優、祖父も俳優だったという俳優一家出身。20代初めに演じたペドロ・アルモドバル(Pedro Almodovar)監督の『ハモン・ハモン(Jamon, Jamon)』(1992年)でペネロペ・クロス(Penelope Cruz)の恋人役を演じ、国際的に注目を浴びた。

1990年代の大半はスペイン語映画に出演。2000年には同じくアルモドバル作品で絶賛を受けた伝記映画『夜になるまえに(Before Night Falls)』(2000年)で、キューバから亡命した同性愛者の詩人レイナルド・アレナス(Reinaldo Arenas)を演じ、さらに脚光を浴び、スペイン人俳優として初めてアカデミー賞主演男優賞候補になった。

 4年後、再びアカデミー賞候補としてバルデムが浮上したのは、四肢麻痺となり尊厳死という決断と葛藤する漁師を演じた『海を飛ぶ夢(The Sea Inside)』(2004年)。チリ生まれのスペイン人映画監督、アレハンドロ・アメナーバル(Alejandro Amenabar)監督のこの作品は、アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したが、バルデムの類まれな演技は見逃された。

 その後も、マイケル・マン(Michael Mann)監督のクライム・サスペンス、『コラテラル(Collateral)』(2004年)、ミロス・フォアマン(Milos Forman)が画家ゴヤの生涯を描いた『Goya’s Ghosts』などで多彩な役を自在に演じてきた。

 2007年にはバルデムは、映画化が待たれていたラテンアメリカ文学の巨匠ガルシア・マルケス(Gabriel Garcia Marquez)の小説『コレラの時代の愛(Love in the Time of Cholera)』の主演も射止めた。(c)AFP