【9月12日 AFP】デヴィッド・クローネンバーグ(David Cronenberg)監督が、カナダで開催中の第32回トロント国際映画祭(32nd Toronto International Film Festival)で記者会見を開き、同映画祭への出品作『Eastern Promises』について語った。

■「できるだけ見た人が落ち込むような作品に」

 クローネンバーグ監督の最新作となる同作は、ロシアのマフィアを描いた犯罪スリラー。「できるだけ見た人の気分がめいるような作品にしたかった。希望に満ちて過ぎていると思えるような部分もあるがね」と監督は語った。

 また物議を醸している暴力シーンについては、「暴力は100%物理的で、人体の破壊に関わるものだと考えている。この2つの理由から、あの場面は必要だったし、私なりの手法で見せる必要があった」と擁護した。

■出演は『ロード・オブ・ザ・リング』のモーテンセンなど

『Eastern Promises』の出演者はヴィゴ・モーテンセン(Viggo Mortensen)、ナオミ・ワッツ(Naomi Watts)など。舞台はロンドンだが、パブやビッグ・ベン(Big Ben)、ハイドパーク(Hyde Park)などは登場せず、むしろ移民や犯罪者たちの生活の場である、ロンドンのすすけた街路に焦点が当てられているという。

「監督は、従来の犯罪映画では見られないようなロンドンを見せてくれた」と、モーテンセンは語る。

『ロード・オブ・ザ・リング(Lord of the Rings)』3部作でのアラゴルン(Aragorn)役として知られるモーテンセンは、同作ではマフィアと強いつながりを持つロシア人レストラン経営者の運転主役を演じている。2005年のクローネンバーグ監督作品『ヒストリー・オブ・バイオレンス(A History of Violence)』にも出演している。

■撮影中にロシア情報機関員元幹部殺害事件が発生

 本作品の撮影中に、ロンドン市内でロシア情報機関員元幹部アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏が殺害されるという事件が起きた。リトビネンコ氏の死因となった放射性物質「ポロニウム(polonium)210」が見つかったとして多数の警官が詰めかけた建物は、同市に暮らすクローネンバーグ監督とモーテンセンが暮らしていた場所の付近だったという。

 この経験についてクローネンバーグ監督は、「怖いと思うより、エネルギーが沸き上がってきた。あの事件に関連した何か深いものに関わっているとように感じた」と語った。

 クローネンバーグ監督はこれまで、『ヴィデオドローム(Videodrome)』、『戦慄の絆(Dead Ringers)』、『裸のランチ(Naked Lunch)』、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を獲得した『クラッシュ(Crash)』などを手掛けている。

 今回のトロント国際映画祭には、もう1作品『Chacun son cinema』も出品。『Eastern Promises』は、数週間後に北米で、その後は欧州、ロシアでも公開の予定。(c)AFP