【9月9日 MODE PRESS】アジア最大規模のデザインイベント、グッドデザインエキスポが今年も8月26日から28日まで開催された。グッドデザインエキスポは、グッドデザイン賞の審査対象デザインを公開するイベントで、会場となった東京ビッグサイトの巨大な空間には、身近な生活用品から乗用車や建築まで、人々のくらしと社会をとりまく、ありとあらゆるデザイン2000点以上が一堂に並び今年も42,000人以上もの来場者が訪れた。初日には、昨年からグッドデザイン賞審査委員長を務める深澤直人(Naoto Fukasawa)氏とファッション評論家でグッドデザイン賞審査委員の川島蓉子(Yoko Kawashima)氏、そして会場の空間ディレクションを手がけたスペースコンポーザーの谷川じゅんじ(Junji Tanigawa)氏がオープニングトークセッションを行った。

■豊かさと適正について再考する

谷川:「デザインは生活を豊かにする知恵と、それを具体化するもの。豊かさとはヒト、モノ、コト、そしてそれをとりまく環境のそれぞれ相互の関係が適正で、調和すること。適正であるか否かは、長い年月や人々の経験によって評価され、適正なものは残り、そうでないものはなくなる。デザインが生活に必要なものか否か、ここで考えたい。」そう深澤さんが今回の開催に寄せてメッセージを書かれていますが、非常にシンプルななかに深い想いが込められていると思います。お二人の考える、豊かさと適正とは?

深澤:今まさに、なにが適正か問われる時代です。デザインは、経済が成長の波に乗って、ものをつくって売って経済を豊かにしようという時に発生した。経済を活性化させるためのひとつの道具でもあったわけですが、はたして豊かさってそれだけなのかなと問う時期に来ています。豊かさを定義するものはなにか?ただ売れればいいのか、自分たちの生活のなかで、デザインはどう活かされるのか考える。イコール豊かさの定義のひとつです。今年はヒト、モノ、環境、そのすべてが調和し適正であるか否か考える年といってもよいでしょう。いくら見た目にかっこよくても、それが調和していなければ、無駄なものなのではないかとさえ思います。

川島:この2つの言葉が意味することは非常に深い。消費者の視点からみて、なにが適正?なにが豊か?なのか震災以前から、その2つは考えなければいけなかった。送り手からだけでなく、使い手側からみてなにが適正で、豊かなのか。私個人としては、豊かさのなかに、ワクワクドキドキがほしいですね。

■変わらないと思ったモノが変わった瞬間

谷川:今回のイベントの趣旨、そして多くの人々の想いをふまえ、今年の会場デザインは、よりシンプルで無駄のない構造にしました。会場全体が白くほんのり明るい色で包まれているのは、LEDを使用したからです。それによって、消費電力を押さえ会場全体の温度が下がっています。「グッドグローブ」とネーミングした14万000球のLEDからなる会場中央に設置した今回のシンボルともいえるオブジェは、消費電力が890W。昼間は屋外に設置された薄膜太陽電池によるクリーン電力を使用しています。

 3.11によって、変わらない前提のものが変わってしまった。震災以前から常日頃、私たちの頭にはあったけれどなかなか手を付けてこなかったコトやモノを、今あらためて考える時期に来ています。それぞれ自分たちに出来ることは何か考え、少しずつではあるけれど良い方向へと前進していると思いますが、お二人はどうお考えですか?

深澤:震災以降、それまで普通に送っていた日常生活からかけ離れた日々を強いられている人々が居る中、デザイナーとして何をできるのか、問われた。いつ自分がなにをしたらよいのか、悩みの渦のなかに、日本中すべての人がいたと思います。なにが正しいのかわからないくらいに世の中全体がパニック状態に陥ったけれど、徐々に落ち着き始めたときに、少しずつ出来ることからやっていくことを人々ははじめた。こういったイベントも東北の人々の物作りに関することを紹介する機会で、ごく自然な流れだと思います。

川島:まさにここで今日こういうイベントが実現できたということに意味があると思います。もちろん開催に至るまでには沢山の議論が交わされたと思います。しかし、日本の経済のためにも我々は出来るところから前に進まなければいけない。

■アジアのなかの日本

川島:ここで以前から深澤さんにお伺いしたかったことがあるので、質問してみたいと思います。ここ最近、アジア勢が元気なのと比較して、日本はどうなんでしょうか?日本の未来とそのポジションは?

深澤:日本は、もう長く飽和状態が続いていると思いますが、言い方を変えれば成熟したマーケットであるということです。人々が豊かさについて考える時、それはお金や物じゃないということに気がついてしまった。今は、そんな状態から一歩進んで、自分たちを見つめ直している時期だと思います。決して後退しているのではなく、進化している時期でもある。自分のなかの小さな宇宙を完結させるべく、この先、アジア諸国の新興国の人々もこの道をたどるであろうサンプルと考えるべきでは?

 物事の本当の良さは、わかるまでに時間がかかる。決して負けてるわけではないと思いますよ。私は心配してませんよ。

谷川:川島さんご自身はどうお考えですか?

川島:「勝った」「負けた」ではないと私も思います。ただ、自分たちの存在意義を考える必要はある。適正な消費と豊かな消費ってなに?と消費者自身が考えている。

 消費が止まっている、縮まっていると世間では報道されていますが、消費者の判断のほうが遙かに進んでいてマーケットが追いついていない状態だと思います。

 大事なのは、必要な量をつくることとその頃合いを見極めること。そして細かくなってきたマーケットにどう対応するかが今後の日本には必要とされるでしょうね。

■Gマークから発信するもの

谷川:では最後に、Gマークの意味するもの、そしてメッセージを。

深澤:Gマークは、デザインの質の高さが保証された印なのだと感じてほしいのです。もちろん金賞や大賞をとるためのモチベーションも持ってほしい。ここには平和のレベルが記されている。デザインが世の中と調和しましたよという印として考えてよいと思います。

川島: Gマークはその先を考え見据えてほしい。人がつかってこそGマークは意味があり、価値がある。是非みなさん、Gマークとはなにかを世の中にもっとつたえてください。そして、Gマークの価値を正しく適正に、豊かにつたえてください。

=プロフィール=
◆深澤直人(ふかさわなおと)
プロダクトデザイナー/NAOTO FUKASAWA DESIGN 代表
多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業。Naoto Fukasawa Design代表。ヨーロッパ、北欧のメジャーブランドの仕事の他、国内の大手メーカーのデザインを多数手がける。「MUJI」壁掛け式CD プレーヤー、「±0」加湿器、「au/KDDI」INFOBAR、neon はN.Y.MOMA 永久収蔵品となる。2006 年Jasper Morrison とともに「Super Normal」を設立。2007 年 ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を授与される。米国IDEA 金賞、ドイツiF 賞金賞、英国D&AD 金賞、毎日デザイン賞、グッドデザイン金賞など受賞歴は60 賞を超える。21_21 DESIGN SIGHT のディレクター。武蔵野美術大学教授、多摩美術大学客員教授。著書に「デザインの輪郭」(TOTO出版)、共著書「デザインの生態学」(東京書籍)、作品集「NAOTO FUKASAWA」(Phaidon)。

◇川島蓉子(かわしまようこ)
マーケティングマネジャー/伊藤忠ファッションシステム㈱ マーケティングマネージャー
早稲田大学商学部卒業。文化服装学院MD 科修了後、現社に入社。異業種ネットワークを組みレポート誌の編集、セミナーの企画運営などを行う。また、国内外企業に対し、市場リサーチ、消費者動向分析などのプロジェクトを実施。著書に『伊勢丹な人々』、『松下のデザイン戦略』、『ブランドのデザイン』等がある。

◆谷川じゅんじ(たにがわじゅんじ)
スペースコンポーザー/JTQ 株式会社代表
2002年、空間クリエイティブカンパニー・JTQを設立。「空間をメディアにしたメッセージの伝達」をテーマにイベント、エキシビション、インスタレーション、商空間開発など目的にあわせたコミュニケーションコンテクストを構築、デザインと機能の二面からクリエイティブ・ディレクションを行う。主な仕事に、KRUG bottle cooler(2011)、平城遷都1300年祭記念薬師寺ひかり絵巻(2010)、パリルーブル宮装飾美術館 Kansei展(09)、グッドデザインエキスポ (07-11)、JAPAN BRAND EXHIBITION(07)、文化庁メディア芸術祭(05-08)などがある。DDA 大賞受賞、優秀賞受賞、奨励賞受賞、他入賞多数。

【グッドデザインエキスポ2011】
会期:2011年8月26日(金)〜28日(日)
会場:東京ビッグサイト 東展示棟5,6ホール
主催:公益財団法人日本デザイン振興会
出展企業・団体:2011年度グッドデザイン賞参加の約1000社ほか

 なおグッドデザイン賞は10月3日に今年度の受賞結果を発表、11月9日に特別賞各賞の発表と授賞式を開催予定。【岩田奈那】(c)MODE PRESS

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