【9月11日 AFP】ニューヨークのタイムズスクエア(Times Square)近くにある明るい広々としたスタジオで、デザイナーのビブー・モハパトラ(Bibhu Mohapatra、41)はスパンコールをちりばめたメッシュ生地をマネキンにあてていた。

「こうしていると、子供のころ住んでいたインドで、夜に蚊帳を張ったのを思い出します」とビブー。「蚊帳だときらきら光るものは内側に付いていたんですけどね」 

 彼自身の名を冠したブランドの作品は11日にNYファッションウィークで発表される予定だ。

■コレクション発表までの道のり

 5年近く前に2人のスタッフとブランドを立ち上げたスタジオ兼ショールーム兼アトリエで、現在ビブーは7人のフルタイムスタッフを雇っている。「振り返ってみれば、とてもおもしろい道のりでした」とAFPの取材にビブーは答えた。「学ぶことにオープンである限り、何かを成し遂げることができるのです」

 ビブーがファッションに興味を持つようになったきっかけはインドのオリッサ(Orissa)州で過ごした幼少期にさかのぼる。母親に教えてもらい、古いミシンで彼にとって最初のミューズである妹のために服を作ったのがすべての始まりだった。

 ビブーは1996年に米ユタ(Utah)州の大学で経済学の修士号を取ると、ニューヨーク(New York)に移ってファッション工科大学(Fashion Institute of TechnologyFIT)に入学。最終学年のときにFITのベスト・イブニングウェア・デザイナー批評家賞(Critic's Award for Best Evening Wear Designer)を受賞した。卒業後は米ブランド「ホルストン(Halston)」でインターンとして経験を積んだ後、「ジェイ・メンデル(J.Mendel)」で8年間デザインディレクターとして働いた。

 独立後、彼のブランドはハリウッドスターやミシェル・オバマ(Michelle Obama)米大統領夫人が顧客として名を連ねるまでに成長した。ミシェル夫人は、トークショーに出演した際、ビブーの2012年リゾートコレクションのなかから、黄色のプリントドレスを着用した。

■まだまだ実験段階

 今シーズンのコレクションでビブーは、ニューヨーク・シティ・バレエ団(New York City Ballet)の元プリンシパルで、現在はモダンダンサーとして活動する親しい友人、ウェンディ・ウェーラン(Wendy Whelan、41)からインスピレーションを得た。「ウェンディは自分を表現する新しい言語をモダンダンスに見つけたのです。ウェンディは新しい世界を探検しようとする小さな子供のようで、まさにアーティストです」

 同じことが、香港(Hong Kong)の高級百貨店「レーン・クロフォード(Lane Crawford)」と独占契約を結んだことでアジアでの知名度が上昇しつつあるビブーにも言えるようだ。「私は今、さまざまな素材や生地をミックスして、いろいろな実験をしてみたいのです。私の研究対象には制限がありません。どこからでも、何からでもインスピレーションを得ています」

 そのインスピレーションを形にするため、ビブーは非常に多くのスケッチをする。「何週間もスケッチをして過ごします。自分の納得がいくものが出来上がるまでには長い時間がかかります。時には2週間かかることもありますよ」

 スランプに陥った時、ビブーはニューヨークの喧騒(けんそう)を離れ、ハドソン川(Hudson River)から電車で数時間かかるニューヨーク州コロンビア(Columbia)郡にある、「小さな我が家」と呼んでいる家に行くという。

 その近くには19世紀の邸宅で後に女子刑務所にされた建物がある。シュールレアリストのマン・レイ(Man Ray)と1920年代のパリ(Paris)からインスパイアされたビブーは、この建物を幽霊屋敷に見立てて自身の2013年秋冬コレクションのショートフィルムを撮影した。

■故郷への想いとブランドの展望

 ファッション界のパーティー三昧の日々はあまり好きではないと語るビブーは、自分のことを「インドア派」だと打ち明けた。「夜の予定が空くと、『よし!家に帰ったら出前を取ってテレビを見よう!』という気分になります」

 ビブーは年に2回インドに帰国して、オリッサ州の伝統的な手織物産業を復活させるため政府が支援しているプロジェクトに参加している。「インドが恋しいです。人も食べ物も。インドはとても刺激的な国です。村に行って、代々受け継がれてきた芸術を目にするととても謙虚な気持ちになります」

 ビブーは、自分の名前を冠するブランドを「今より確実に成長させていかなければならない」と語る。この展望の鍵を握るのが、ニューヨークやその他の都市への3年以内の出店計画だ。「少しずつですが、世界中のあらゆる場所に店舗を展開していく予定です。中東での知名度はそれなりにありますし、最高のパートナーのおかげでアジアでも知られるようになってきています」

 同時に、ビブーはブランドの思い描く女性像をより明確にした。教養があり、よく旅をし、しっかりとトレンドを押さえていると同時に、世界的な不景気の中で厳しい要求をしてくる女性だ。「気に入った商品にさっとお金を払って立ち去るような女性はもはやいません。5分ほど商品を吟味して、どう作られているかを確かめ、2007年までならば聞きもしなかったであろう質問をしてくるのです」

「私はアーティストですが、ただ壁にかかっているだけのアートを作っているわけではありません。私は誰かが着て、気分がよくなるような、心を動かす服を作っていきたいと思っています」(c)AFP/Robert MacPherson