【7月29日 AFP】知る人ぞ知る、隠れ家のような店で、買い物客がシャンパン片手に有名デザイナーが手がけた服を、惜しみなく買い込む―。

 マンハッタンやミラノでは珍しい光景ではないかもしれないが、サハラ以南のアフリカで最大の都市ラゴス(Lagos)では、「テンプル ミューズ(Temple Muse)」のような店は新しい。だがそうした状況を変えるべく、ブティックオーナーとファッションデザイナーの数が増え続けている。

 ナイジェリアの人口、1億6000万人のほとんどが貧困層だが、大陸最大の石油産業で利益を得た人々など富裕層に属する人々は、アフリカ大陸の中でも最も裕福な部類に入る。

 ナイジェリア人のファッションセンスもよく知られており、国際的に成功しているファッションデザイナーもいる。最近ではミシェル・オバマ(Michelle Obama)米大統領夫人が南アフリカへの外交で、ナイジェリアの「Maki Oh」のブラウスを着ていた。

 ラゴス育ちのインド人Wadhwani兄弟は、ラグジュアリーマーケットに隙があることを見抜いた。服を買うために飛行機でヨーロッパまで行って買い物をするような、超富裕層にターゲットを絞った店をオープンさせたのだ。「隙間市場を見つけたのです」とラゴスにほど近いヴィクトリア島(Victoria Island)にある「テンプル ミューズ」の共同オーナー、Avinash Wadhwaniは語る。以前、英高級百貨店「セルフリッジ(Selfridges)」でバイヤーとして勤務し、実際の現場でヨーロッパ最高峰のブランドの魅力に触れてきた彼は、ナイジェリアの富裕層が地元のファッションを求めていると語った。「ナイジェリア人の中には2週間ごとに飛行機に乗って世界中の高級ブティックで買い物している人もいますが、それでも自国への誇りがあり、伝統的な何かを手に入れたいという想いがあるんです」

■「どこで買ったの?」

 5年前にオープンした「テンプル ミューズ」は騒々しい巨大都市からは離れたところにあり、シャンパンバーとカフェが併設されている。商品の中には3000ドル(約30万円)の値段がつけられており、商品を選んでくれるコーディネーターもいる。

 海外でのショッピング経験が豊富な顧客の一人、Odun Ogunbiyiさんは、ナイジェリア国内で買う洋服はどこであれ褒められるとAFPに語った。「旅行はよくします。友人や家族を訪ねて、マイアミやロンドンなどによく行きますね。そうするとみんな、その服どこで買ったの?と聞いてくるんです」

 自分が着ている服はナイジェリアの物だと伝えると、皆口をそろえて「信じられない」と言うと彼女は語った。「世界的に成功しているブランドと同じ土俵に立てるところまで来たのです。これはとても素晴らしいことです!」

 Wadhwaniもナイジェリアのデザイナーが世界的に評価され始めていると語る。ミシェル・オバマ米大統領夫人が「Maki Oh」のブラウスを着用し、人前に姿を現したのが、その証拠とも言えるだろう。しかしWadhwaniは地元の顧客がヨーロッパの高級ブランドも着たいということを理解しており、ナイジェリアのデザイナー、 Lanre Da Silva Ajayiのドレスの横には「ジバンシィ(Givenchy)」や「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」などを並べている。

 Tope Eduさんもナイジェリア人の富裕層が国内で買い物をすることを望んでいると証言する一人だ。彼女は4月にオープンした、ヴィクトリア島にあるサハラ以南アフリカで唯一の「エルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)」のアウトレットストアでマネジャーを務めている。

 しかしナイジェリアでビジネスをすることの困難さを思い出しながら、彼女はフランチャイズをオープンさせるまで7年かかったと語った。ゼニアはまず、買いに来る顧客層がいることを裏付けたかったが、信頼できる顧客データがないという事態に直面した。

 しかし開催した複数のイベントが成功したため、既製服の店舗が生き残れるという自信をつけたという。最高責任者のGildo Zegnaもアフリカ富裕層の購買力を信用していた。彼は英紙フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)に、アフリカからの顧客は他の大陸からの顧客と比べ、平均1.5倍の買い物をするとコメントしている。

 そして彼らにとって次の問題は立地と、「ラゴスのゼニア店舗が世界のゼニア店舗と同じように見えるようにする」ことだったとEduさんは語った。「これがとても難しいのです」と彼女はナイジェリアの悪夢のような官僚制に言及しながらコメントした。

 路面店は、パリのシャンゼリゼ(Champs-Elysees)通りとは程遠いオフィスビルの並ぶ通りに立っているが、中に入ると繁盛している様子がうかがえる。特に5万円を切る、ポロシャツのようなカジュアルウェアが人気のようだと、EduさんはAFPに語った。彼女はナイジェリアの富裕層が海外でのみショッピングをするという考えが誤りであることを証明した。「一度地元でショッピングが出来ると知ったら、リピーターとしてこの店を訪れてくれるでしょう」

■アフリカアクセントの「ZARA(ザラ)」

 ゼニアと同様に、デザイナーのFolake Folarin-Cockerもナイジェリアと、アフリカのマーケットに可能性を感じていた一人だ。1998年にローンチした女優のティファニー・アンバー(Tiffany Amber)とコラボレーションした商品はナイジェリア発の既製品ブランドとして、国内に4つの路面店を持つ。彼女のコレクションはガーナや南アフリカでも販売されており、石油王国のアンゴラでも近々販売される予定だ。

 ミラノやロンドンの顧客も「ティファニー・アンバー」のアイテムを買うことができるが、Folake Folarin-Cockerにとってヨーロッパとアメリカの市場への進出は宣伝が主な目的だという。「ヨーロッパやアメリカのマーケットは飽和状態ですが、アフリカはまだ未開拓ですから」と彼女は語る。

 現在彼女のブランドは高額なものを取り揃えているが、アフリカの人々が手の届きやすい既製品ブランドを必要としていると考え、低コストのラインも展開予定だという。将来的にはアフリカテイストの「H&M」や「ザラ(ZARA)」のようなブランドにしたいと語った。

 「テンプル ミューズ」のオーナーや顧客のように、Folarin-Cockerはナイジェリアデザイナーの高まり続ける評価を誇りに思っており、ファッション業界での活躍がアフリカへの認識を変える手助けになる可能性があると語った。

 「ファッションはアフリカの印象を塗り替える手段の一つです。マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の『ウィ・アー・ザ・ワールド(We Are The World)』のイメージとはもう違うんです」(c)AFP