【7月12日 AFP】オーストラリアを拠点に活動するピア・インタランディ(Pia Interlandi)は、身体と共に朽ち果てていくユニークな死装束を手がけるデザイナーだ。

■祖父の死がきっかけ

 ピアが自身の天職は「死装束を作ること」だと悟ったのは、愛する祖父の葬儀の時だった。家族は、亡くなった祖父のためにとっておきのスーツと革靴を用意した。しかし、ピアは「祖父の遺体に靴を履かせている時『この靴を履いてどこを歩くの?靴なんて彼には必要ないわ』と思いました」と振り返る。

 その経験が、ピアを死装束作りの道へと導いた。故人の想いや弔いの念を込めた死装束を作ろうと思い立ったのだ。葬儀司祭の資格を持つピアは「中 には、私が洒落たスーツを作ると勘違いし『ゴールドのスーツを着て埋葬されたい』という風に頼んでくる人もいます。しかし、 それは私がデザインするタイプのものではありません」と語る。

 実際にオーストラリアではほとんどの人が、一番の“晴れ着”を着させられた上で埋葬される。男性はスーツ、女性もツインセットのスーツが多く、 時にはスリッパやアクセサリーといった装飾品も共に埋葬される。「ポリエステルの生地に包んで埋葬すると、先に人体が腐敗し、衣服のみが長く残っ てしまう。透明人間のように、ポリエステルのネグリジュだけが奇妙に在り続けるのです。それには少し違和感を感じます」とピアは語る。

■死装束に最適の素材

 ピアはデザインを学ぶためロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)に入学し、ビニールやポリエステルなどの化学繊維を使わない作品制作に着手した。原料は、動物の臓器だ。「実際に食肉処理業者へ出向き、たくさんの臓器をもらってきました。そして、それを分解して写真撮影をしたりもしまし た」と彼女は説明する。

 死に対する彼女の関心は、体から排出される汗とともに溶ける生地の開発へと移っていった。実用的な日常着には使えないが、埋葬にはぴったりの素材だ。ピアは、生地の研究のためにはどんな苦労もいとわず、21匹の豚の死体に彼女が作った死装束を着せて繊維の持久性を実験した。1年以上かけ て少しずつ豚を掘り起こし、生地が動物の体とともに少しずつ腐敗していくことを証明したのだ。

「私が作った生地は、1年以内に完全に消えてなく なっていました。最後の豚を掘り起こしたときには、刺繍部分と骨、毛根だけしか残っていませんでした」

 素材は、環境にも優しい。「デザインをする際は、環境への配慮を忘れないようにしています。プラスチックで地球を汚染したくはありません」とピア。「死装束は、体を覆うことはもちろん、美しさや埋葬される人に似合っていることも重要になります」

■死について語るきっかけに

 現在オーストラリアでは、教会で行う形式的な葬儀より、故人の逸話や写真、好みだった音楽などそれぞれのスタイルを取り入れた自由な形式の葬儀が増えてきている。ピアも、死装束に故人のお気に入りだった詩や歌詞、名前、家系図を刺繍することを好んでいる。

 また、ピアは自身の仕事を、死についての話し合いを導く“ひとつの手段”として考えている。「私の仕事は、頻繁に話題にされることのない『死』 というテーマについて語り合うきっかけを作ることでもあります」。(c)AFP

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