【ベイルート/レバノン 19日 AFP】ベイルートから北方へ54km離れたレバノン山のスキーリゾート地ファラーヤ・ムザール(Faraya Mzaar)で10日、水着とランジェリーのファッションショーが開催された。


■海も山も堪能できるリゾート地

 アラブ諸国の多くは広大な砂漠で知られることが多いが、ここレバノンは「中東のスイス」と呼ばれるほど山が多く、多くの人々がこの地へスノースポーツを楽しみに来る。また春には、太陽の光を浴びながらスキーができるだけでなく、地中海を臨む絶景や午後には海水浴などが楽しめることも魅力の一つである。

 不安定な国内情勢をしばし忘れ、レバノンの人々はこのリゾート地でワインを飲み、おいしい料理に舌鼓を打つ。さらには、豪華なランジェリーショーがテラスから堪能できる。観客の中には、ベールで髪を覆っている女性も数人見られるものの、ほとんどがファーのコートを身につけ敬虔なイスラム教徒の姿は見られない。若者達といえば、流行のスキーウェアに身を包み、英語とフランス語を交えたアラビア語を話すといった具合。イスラムの国のイメージとは反対に、開放的な一面が見られる。

■国内情勢の悪化で客足は激減

 しかし、このきらびやかなイベントも実は去年に比べ激減した顧客を引き寄せる為のもの。レバノンでは、イスラエルからの攻撃や不安定な内政、さらには経済危機などを理由に、顧客数が伸び悩んでいる。

 ファラーヤ・ムザールのマーケティング・マネージャーである、ニコル・ワキーム(Nicole Wakim)さんは、「政治的不安定や経済危機のせいで、去年より30%顧客が減少しています。それに2月の週末は雪が沢山降ったので、交通の便が悪くなったこともその一因でしょう。」と語った。

 さらに「そのためナイトスキーやスキーショー、それからスキー大会やファッションショーなどのイベントを開催し、顧客の獲得に努めています。それから宿泊施設や洞窟探検、観光などを組み込んだツアーパッケージも用意しています。リゾート地運営を行う企業からホテルまで観光産業全体が大打撃を受けています。来年には状況はまだ良くなると思うのですが、ここが都市部から離れていて国内で起こっている事に影響を受けにくいとはいえ、ベイルートの空港を通らなければここに来ることができないため、なかなか難しいのも事実です。」と付け加えた。

■まだまだ不安定な状況

 昨年のイスラエルの攻撃以来、未だレバノン国外に避難している人々も多い。ましてや外国からの観光客は、安心してこの地を訪れることができないのも確かだろう。ここ最近、このリゾート地でスキーを楽しむ外国人といえば、西欧諸国の外交官や隣国シリアや北欧から来る人々、それからレバノン駐在国連治安部隊員たちくらいだ。

 ここで、スキーインストラクターを務めるヨセフ(Yussef)さんは、「去年は4000ドル(約47万円)も稼いだのに、今年は1000ドル(約12万円)にもならないよ」と不満を漏らした。

■『不屈のレバノン』を示したい

 ムザール・インターナショナルホテルの総支配人であるロバート・ズグビー(Robert Zoghbi)氏は、「去年は、予約率100%という過去最高の売上を記録し、他市場への事業展開や海外進出も行うことができましたが、今年はそれ程の利益が見込めなさそうですね。」と語った。そう言いつつもズグビー氏は、「ファッションショーなどの楽しいイベントを開催することによって、国が困難に屈することのないレバノンを皆に示したいのです。」と誇らしそうに付け加えた。

 しかしながら、中には困難な状況に希望を見いだせない人々もいる。大学のグループでスノーボードに来ているカリム・ハダッド(Karim Haddad)さんは、「こんな風に言ったら自分勝手かもしれないけど、こんな状況ではスキー場を閉鎖したほうが良いよ。」とコメントした。

写真は10日に開催されたファッションショー。(c)AFP/MARWAN NAAMANI