【6月8日 AFP】経済成長に沸く中国。湖南(Hunan)省にある人口数百人の村、 双溪(Shuangxi)ではかつて200人前後の男性が、都市部でのインフラ整備や超高層ビル建設の仕事を求めて出稼ぎに出たが、その際の労働環境が原因で4人に1人が粉じんの吸入による、じん肺で死亡した。治療法がなく、死を待つしかない人は100人を超える。

 建設現場で約15年間働いたシュウ・ズオキン(Xu Zuoqing)さん(44)は水田や緑豊かな山に囲まれる故郷に戻ったが、家の外を散歩する最中にも痛みで顔がゆがむ。シュウさんが息苦しそうにすると妻が駆け寄って体をさする。シュウさんは「肺がふさがれているような感覚だ。胸がとても苦しい」と話し、「安らかに死ねたらいいのに。いや、死なずに済んだらいいのに」と語った。

 中国では急速な経済成長が30年余り続き、世界2位の経済大国に躍り出た。その経済成長を支えたのは低賃金で働く農村部からの出稼ぎ労働者で現在、2億3000万人いるとされる。だが、労働環境の安全基準は低く、専門家らによると、何百万人もの出稼ぎ労働が治る見込みのない、じん肺にかかっている。

 じん肺には、建設業で働く人々がかかる石綿肺や鉱山労働者がかかる黒肺病などがある。発症までの潜伏期間が長いため、働いたり歩いたり、時には息をすることさえ苦しくなるまで、肺内に沈着してしまう粉じんに身をさらすことになる。

 公式統計では、中国でじん肺を患う人は67万6541人で、職業病の90%を占めるとされるが、労働運動家らは、実際には600万人に上る可能性があると指摘する。また報告された患者の5分の1が既に死亡している。
 
 農村部の貧しい家族は稼ぎ手を失う上に、せいぜい痛みを和らげることしかできない医療に対し、高額の請求を受ける。政府は最小限の保険分を負担するだけで、企業も補償金を支払うことはほとんどない。

 香港(Hong Kong)に拠点を置く労働権利保護団体、中国労工通報(China Labour Bulletin)の広報を担当するジェフリー・クロソール(Geoffrey Crothall)氏はじん肺について「薬や治療で病気の進行を遅らせることはできるが、基本的には致命的な病気だ」と述べた。また「一家の大黒柱を失うことで影響を受ける3、4世代にわたる話だ。しかも、病気にかかるのは一家に1人とは限らない。父親、その兄弟、伯父、いとこなど皆揃ってじん肺を患うケースが多くみられる」と説明した。

 シュウさんの兄弟は2月に他界した。残された5歳と12歳の子どもは祖母が面倒を見るという。シュウさんは10歳と12歳になる自分の子どものことを心配し、「早く学校を卒業してくれたら、早く大きくなってくれたら」と願う。

 シュウさんの住む双溪から出稼ぎ労働者が主に向かったのは、香港に隣接する広東(Guangdong)省深セン(Shenzhen)だった。ここで建設現場での掘削や発破の仕事を見つけ、薄っぺらな保護マスクしか着けずに、ほこりまみれになって働いた。

 2000年代後半になり、初めてじん肺の危険が顕在化し始めた。労働者が1人、また1人と働くことができないほど弱っていき、最初に発症した人は死亡した。だが、彼らは犠牲者の中ではまだ恵まれている方だ。09年に補償を求めて深センで座り込みの抗議を行い、世論を味方につけた。数か月にわたる交渉の末、多くの者が政府から7万~13万元(現在の為替レートで約110万~210万円)の補償金を受け取り、要件を満たす記録があるごく一部の人々には最高29万元(同約465万円)の保険金が支払われた。

 じん肺にかかった犠牲者のうち、補償を受けることができるのは中国全体で推定10~20%程度のみだ。潜伏期間が長いため、ほとんどの労働者が発病時までに雇用関係を証明する書類を失くしてしまったり、企業がつぶれたり、経営者が変わったりしている。また、企業側が責任を否定するケースもある。(c)AFP/Carol Huang