【11月15日 AFP】中国共産党の指導者たちは世界第2の経済大国を改革し、「世界の工場」から脱皮させると誓っている。しかし、その大事業にはいくつもの大きな障害があるとエコノミストたちは指摘している。

 北京(Beijing)で開催され14日に閉幕した中国共産党の第18回党大会を最後に総書記を退任した胡錦濤(Hu Jintao)氏は、今回の党大会の中央委員会報告(政治報告)の中で、中国の国内総生産(GDP)を今後10年以内に2倍に増やすと述べ、「経済成長モデルの転換」を約束した。

 中国指導者層は自分たちの正統性を正当化するために経済成長を維持しなければならない。そして社会不安の「亡霊」を避けなければならない。

 安価な製品を欧米に売り、インフラに巨額の資金を費やすことで中国の近年の経済的奇跡はもたらされてきた。しかしこの成長モデルは長期的に維持することはできないとみられている上、成長はすでに減速している。

 胡錦濤氏は「新たな成長モデルの策定を急ぎ、発展はクオリティーとパフォーマンスの向上に基づくようにすべきだ」と述べ、低コストの製造業は他国へ移転し、中国は革新的な技術大国を目指すと語った。

 世界銀行(World Bank)と中国政府は、2月に合同で発表した報告書の中で、中国経済の柱の1つとして内需の創出が必要だと指摘した。このことは胡氏の後継となる習近平(Xi Jinping)氏も認めている。

■末端の製造業は他国へ移転

 しかし変革は雇用の喪失という大きな犠牲を伴いかねず、それによって中国共産党が忌み嫌う社会不安があおられる可能性がある。また非熟練労働者を訓練して欧米の経済大国と競争するのは壮大な課題だ。

 通信分野や高速鉄道も含めいくつかの製造業分野では、これまでも欧米企業と直接競争することができている。ボーイング(Boeing)やエアバス(Airbus)と販売を競う国産旅客機も開発中だと言われている。

 北京大学(Peking University)のマイケル・ペティス(Michael Pettis)教授(財政学)は、現在の中国の好況は、安価な労働力、過小評価されている人民元、操作された低金利に依存していると言う。「中国で利益を上げるために技術革新は必要とされない。鍵となるのは低利融資と政府のコネへのアクセスだ」

 繊維や靴製造業のような労働集約産業はすでに、より安価な労働力があるインドネシアやベトナムといった発展途上国へと移転し始めている。「中国は製造業大国であり続けるだろうが、製造業の末端のかなりの部分はアジア、そしておそらく南米やアフリカなど、さらに賃金の安い国へと移転するだろう」と話すのはシンクタンク、エビアン・グループ(Evian Group)のジャンピエール・レーマン(Jean-Pierre Lehmann)所長だ。

 中国の新たな経済目標によって、近年政府が優先してきた空港や高速道路、高速鉄道といった大型の投資が減るかもしれない。インフラから住宅までの固定資産投資は、成長が減速しているとはいえ、2011年はGDPの半分以上を占めていた。

 中国が輸出への依存を弱める中、将来の成長は、近年はGDPの40%未満で推移している家計支出にいっそう依存してくる。中国国家発展改革委員会(National Development and Reform CommissionNDRC)の張平(Zhang Ping)主任は前週末、今年1~9月では投資よりも国内消費のほうがGDPの成長への貢献が大きかったと発表した。

■内需拡大も必要

 しかし投資の後退を埋め合わせるには、いっそう急速な消費拡大が必要だ。また社会的なセーフティネットが貧弱な中国の家計は、危機に備えて、あるいは子どもを大学へ送るために所得の約半分を貯金するという選択をしており、これが消費にとって大きなブレーキになっている。

 ペティス教授は中国が経済再編を試みる次の10年は「(中国の)GDP成長は急激に減速すると思っておいたほうがいい」と述べる。中国は世界経済の成長の鍵を握っているため、世界全体に大きなマイナスの影響を与えるかもしれない。

 中国政府は「わが国はもはや世界のクリスマスツリーの飾りの中心地でありたくはない。低スキル、低付加価値、低賃金の仕事が他国へ出て行ってくれるのは歓迎だ」と話していると、証券グループ、CLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(CLSA Asia-Pacific Markets)の中国担当エコノミスト、アンディ・ロスマン(Andy Rothman)氏は語る。

 ロスマン氏は最も大きな打撃を感じるのは豪州、ブラジル、インドネシアなど「原材料を中国へ輸出してきた国」だろうと言う。しかし敗者がいれば勝者もいるだろうとも同氏は語る。「ドイツや米国など、複雑で高度な生産機器などを中国に出荷している先進国にとっては有利だ」

 香港(Hong Kong)を拠点とするコンサルタント会社シルクロード・アソシエイツ(Silk Road Associates)のベン・シンプフェンドルファー(Ben Simpfendorfer)最高経営責任者は、改革は「たとえ長期的には実りが大きくても」、最初の段階では「かなり痛みを伴う」可能性があり、短期的な失業も起きるだろうと予測する。ただし中国の輸入は増えるはずだと言う。

 米ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)は、もし中国が胡錦濤氏の約束を実現できれば、中国の人口の約半数にあたる7億人が2020年までに年間所得7000~2万3000ドル(約57万~190万円)の同国の中間層に加わることになると報告書で述べている。

 経済協力開発機構(OECD)は9日、2016年に中国が購買力平価ベースで米国を超える世界最大の経済大国になるとみられると発表した。ただし、一人当たりのGDPでは米国の4分の1くらいにしかならないだろうと付け加えた。(c)AFP/Boris Cambreleng