【10月24日 AFP】世界をまたにかけて活躍する企業の専門職やエグゼクティブ──いわゆる「エクスパット」と呼ばれる国外駐在員たちの人生は、太陽と同様に東から昇り、西に沈んでいるようだ。英金融大手HSBCが世界の駐在員5339人を対象に行った最新調査で、現役時代の赴任先としてアジア諸国の人気が高まる一方、引退後は欧州での生活を望む傾向が明らかになった。

 高所得で貯蓄も多く投資先や税金対策について助言を必要とするエクスパットには、金融業界の個人資産部門が熱い視線を注いでおり、HSBCは5年前から毎年、調査を行っている。今月発表された最新調査結果からは、頭脳と専門技術を兼ね備えたソフトパワー人材の新興経済国への流出が加速している情勢がうかがえる。

■キャリアアップはアジアで

 同調査では駐在員としての滞在経験全般と経済状況について、各国をそれぞれ1~30位までランキングしている。最新調査では、滞在経験ランキングの上位12位中4か国、経済状況ランキングの同5か国がアジア諸国だった。

「経済的な条件からも、生活体験面でも、アジアの人気は高まっている」と、HSBCグループのオフショア部門、HSBCエクスパット(HSBC Expat)を率いるディーン・ブラックバーン(Dean Blackburn)氏は説明する。

 赴任先人気ナンバー1はシンガポールだ。また中国も、住むにも働くにも魅力的な国として急速に存在感を強めている。ランキングは2011年の19位から1年で7位まで浮上。中国に滞在する駐在員の3分の2が、自分の経済状況について「向上した」と回答した。 
 
■引退後は太陽豊かな南欧暮らし

 一方、引退先として人気なのは欧州、中でも太陽が降り注ぐフランスやスペインだ。ブラックバーン氏いわく「気候が素晴らしく、生活の質も向上している点が決め手のようだ。自国外での引退生活を考えるエクスパットにとって(フランスやスペインは)最高の選択肢だといえるだろう」。

 欧州経済危機のもたらす寒風は世界中の駐在員が感じており、特にスペインでその声が強いが、それでも欧州に赴任した駐在員は引退後もその国に留まる傾向がみられた。

 このうち、フランスとスペインの「残留率」の高さは目立っている。最新調査によると、引退後も現役当時の国に住み続けるエクスパットは世界全体では10人に1人だが、フランスとスペインでは3分の1に上った。経済情勢の不透明感から、欧州のエクスパットたちが貯蓄を長期投資や不動産投資に振り替える傾向も、追い風となっているという。

 フランスとスペインは住みやすさの点でも人気が高かった。

■子育てはカナダで?家族連れには不向きな中東

 新興経済として成長著しい中東の人気もじわじわと上がっており、高収入を求める若手駐在員には好評の赴任地だ。しかし、家族連れで生活するにはなかなか難しい環境だとの指摘もある。

 子育てに向いているとの結果が出たのは、豊富なアウトドア体験が楽しめるカナダやオーストラリア、治安のよい香港、そして文化体験の豊かな英国だった。

■若者に人気のドイツと英国

 老後に最適との評価がされた欧州の中での例外が、ドイツと英国だ。

 ドイツは引退の地としては人気がないが、同国が力を入れるテクノロジー分野で一旗あげたいという若者たちを引きつけている。経済的にも、ドイツに赴任している駐在員は他の欧州諸国の駐在員に比べて「より前向き」で「非常に明るい見通し」を持っているという。

 英国は、経済不安の影響はあるものの、滞在経験の面で過去数年にない駐在員人気の高さを示した。ウィリアム王子(Prince William)の挙式やロンドン五輪といった行事が続いたことで「エンターテインメントや文化的に魅力的な滞在地だとみなすエクスパットが増えた」と同調査は分析している。

■日本は「滞在経験」下位5か国

 全体的に見ると、同調査の2つのランキングでは現役時代はアジアで活躍し、引退後は欧州に住むという対照的な図式が浮かび上がった。

 滞在経験ランキングは首位が英領ケイマン諸島で、以下タイ、スペイン、マレーシア、メキシコ、スイスと続く。ちなみに同部門の下位5か国は日本、ベトナム、クウェート、サウジアラビア、インドだ。

 また経済面のランキングでは、シンガポールに続く2位に英領バミューダ、タイ、香港、英領ケイマン諸島、メキシコ、中国が続いている。下位はフランス、クウェート、英国が並び、最下位はイタリアとなっている。(c)AFP/Hugh DENT