【6月4日 AFP】ブラジルでは、14年前に不法に持ち込まれた遺伝子組み換え大豆の栽培が急速に広がり、今や大豆総生産量の85%ほどを占めるほどだ。だがブラジルの農家500万戸は現在、遺伝子組み換え大豆を開発した米バイオテクノロジー企業大手モンサント(Monsanto)と法廷闘争を繰り広げており、同社の要求する特許使用料の支払いを拒否している。

 モンサントは1990年代半ば、遺伝子組み換え大豆の米国内での販売を開始した。この大豆にはバクテリア遺伝子が組み込まれ、同社の販売する除草剤「ラウンドアップ(Roundup)」への耐性を持っているため、除草剤からの影響を受けずに雑草のみを除去することが可能となった。

 ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)によると、ブラジルに初めてこの種子が持ち込まれたのは1998年で、隣国アルゼンチンから密輸されたものだったという。その後、2000年代までは国内での使用が禁じられていたが、現在ではその規制も解かれ、生産されるブラジルの大豆の約85%(2500万ヘクタール分)は遺伝子組み換え大豆となっている。

 ブラジルの大豆生産量と輸出量は前年、米国に次ぐ世界第2位だった。遺伝子組み換え大豆は主に家畜飼料や大豆油、バイオ燃料などに使われ、その売上は241億ドル(約1兆9000億円)に上り、農産物輸出の26%を占めた。主要輸出先は中国である。

■種子への特許使用料

 しかし4年前、ブラジルの大小農家500万戸が、モンサントが売上の2%を不当に徴収しているとして、同社を相手取る訴訟を起こした。

 モンサントは、AFPの取材に対し、遺伝子組み換え大豆を使用する農家に2003~04年以降、特許使用料として売上の2%を支払うよう要求していると説明。これに対し農家側の弁護士らは、農家がモンサントに使用料を2度を支払っていることになると反論している。

 弁護士のジェーン・バーワンガー(Jane Berwanger)氏は、「種子を購入する際に代金を払っているし、農家が自家採種する権利は法が保障している。(再度)支払いが必要だなんて世界中どこにもない。農家は民間会社に税金を徴収されているようなものだ」と語る。

 4月にブラジル南部リオグランデドスル(Rio Grande do Sul)州の裁判所は、農家側の主張を認め、モンサントに2004年以降の特許使用料、最低20億ドル(約1600億円)の返金を命じた。これに対しモンサント側は上訴、裁判所の判断は2014年までに下される予定だが、最終判断が出るまでは特許使用料を要求し続けるとモンサントは述べている。

■遺伝子組み換え作物の未来は?

 環境活動家による森林破壊への懸念や、農家の雇用減少につながるとの専門家の指摘をよそに、遺伝子組み換え大豆はブラジル全土に山火事のような勢いで広がっている。

 自著『The grain that grew too much(育ちすぎた穀物)』で大豆モノカルチャーの広がりを厳しく批判した研究者のセルジオ・シュレシンガー(Sergio Schlesinger)氏は、「遺伝子組み換え大豆は穀物栽培で使用される土地の44%を占めているが、雇用では5.5%にしか満たない」と述べ、高度に機械化されたモノカルチャーでは多くの労働力を必要とせず、多数の農家が排除されることになると指摘した。

 かつて遺伝子組み換え大豆の使用を禁止したブラジル政府は現在、同様の技術の研究・開発に投資を進めている。(c)AFP/Hector Velasco