【12月6日 AFP】世界的な金融危機がどんなに深刻に見えたとしても、心配する必要はない─―全米でベストセラーとなった『ヤバい経済学』(原題『フリークエコノミクス(Freakonomics)』)の共著者である経済学者のスティーブン・レビット(Steven Levitt)氏(44)が、欧州債務危機や米経済の低迷を憂える人びとに朗報となる予測を語っている。

 意表を突く、挑発的な切り口で人間の行動を分析し、経済学の既成概念に挑戦するレビット氏は、米シカゴ大学(University of Chicago)の「悪ガキ教授」の異名をとる。

■歴史の文脈では「一時的な状況」

 インドでの講演に48時間で往復する間にAFPの取材に応じたレビット氏は、昨今の世界経済の危機的状況についてまず「『この世の終わり』みたいなことではない。米国経済は今だって少し成長している」と語った。今年7~9月期の米実質国内総生産(GDP)が前期比2.5%増だったことを指している。「実際のところ、わたしに見えていない何か恐ろしい兆しがない限り、世界中の経済は第2次世界大戦以降、成長し続けている。現在についても人びとは後から、単に一時的な状況だったと振り返ることだろう。世界大恐慌のようなものを目にしているわけでは決してない」

 レビット氏はテロリズムを引き合いに出し、世界中の政府は甚大なリソースをつぎ込んで対策に取り組んでいるが「もっと長期的な見地に立てば、些細な問題だ」と述べた。「毎年もっと多くの人たちが交通事故で死んでいる事実を無視できない。テロなど足元にも及ばないほどだ。極端なのはテロリズムに対するわたしたちの態度なだけで、それが実際よりも問題を大きく見せているのだ」

■競争力のないときには誰も手をつけていないことを

 アメリカ経済学会(American Economic Association)のジョン・ベイツ・クラーク賞(John Bates Clark Medal)を30代で受賞するなど華々しい経歴のレビット氏だが、学校時代を通じて「数学が得意だったことはなく」常に格闘し続け、米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)の博士課程へ入学を許可されたときには「何か大きな間違いがあったに違いない」と思ったほどだった。人生の謎解きをするのが大好きだというレビット氏は、自分個人の経験と身の回りで見聞きすることの不一致を考察することから研究テーマを決めた。「ただ自分の鼻を頼りに物事や周りの状況を見て、結論を引き出しているんだ」

 レビット氏が知られているのは、経済学の理論を学問上扱われることが珍しい現実の事象に照らし、経験則に当てはまらない結論を引き出す手法だ。例えば麻薬売人のほとんどは、稼ぎがさほど多くはなく、実は母親と同居しているケースが多いといった事実だ。また米国で犯罪予備軍が減ったのは中絶の合法化が理由だという主張で論争を巻き起こしもした。

 彼は『ヤバい経済学』での自分の仕事を「おなら学の権威」と呼ばれた父親の研究と比較する。レビット氏の父親も周囲から医学研究には向いていないと言われたが、ひとつだけ研究者が不足している分野があると知り「腸内ガス」研究の道に進み、第一人者となった。「他の人と対等な立場で競争できるほど有能でないときには、誰も手をつけていないような隙間を見つけなくちゃいけない。わたしが(経済学で)やっていることは、ガス研究における父のキャリアと似ているね」

 今回初めて訪問したインドでは、その混沌さが特に印象に残ったという。「この国がとにかく機能していることが驚きだ。けれど何か適切なことをしているのだろう。すごい勢いで経済は成長はしているんだからね」と今年、予測されている7.5%のGDP成長率ついて触れた。(c)AFP/Penny MacRae