【8月3日 AFP】経済低迷で依然、失業率は高止まり、連邦債務危機で信頼も揺らいでいる米国だが、不況の中で唯一、大企業だけが過去最高の増益を手に我関せずといった体でいる。

 景気後退と米国債のデフォルト(債務不履行)を恐れた株式市場も相変わらず低迷しているが、マイクロソフト(Microsoft)やアップル(Apple)といったIT関連大手から、化学・電気素材メーカー3Mや建設機械大手キャタピラー(Caterpillar)、タイヤ大手グッドイヤー(Goodyear)まで、米国の巨大企業が7月に発表した4~6月期の業績は、空前の好決算だった。

 米格付け大手スタンダード&プアーズ(S&P)の株価指数「S&P 500」を構成する米主要企業500社のうち、2日までに4~6月期決算を発表した企業の72%が、低調を予測したアナリストらの見通しを裏切っている。同社のアナリスト、ハワード・シルバーブラット(Howard Silverblatt)氏は、現在の傾向が続けば、S&P500企業にとって過去最高の四半期ともなりうると指摘している。

■リーマンショック後の教訓

 ほかの指標がすべて超大国アメリカの経済の弱体化を示している時に、大企業だけが活況を呈しているのは驚きかもしれない。

 同国の失業率は9.2%、前週米政府が発表した4~6月期の経済成長率は1.3%と市場予想を大幅に下回った。アナリストらによると、米国の大企業が今「うまくやれている」のは、不況の間にコストを削減し、従業員を解雇し、インフラ投資を抑え、それによって利益幅が拡大したことが理由だという。

 金融サービス大手キャンターフィッツジェラルド(Cantor Fitzgerald)の米市場担当ストラテジスト、マルク・パド(Marc Pado)氏は次のように話す。「『企業国家アメリカ』は非常に強靭だ。彼らは景気の下降に対して準備していた。二番底に入るぞと誰もが警戒し、備えていた。現金を留保し、新規に雇用せず、在庫の棚卸をしていた」

 米大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(Moody's Investors Service)が前週発表した報告書によると、米国の非金融企業の現金保有高は2010年末時点で1.2兆ドル(約92兆円)、前年比11%と急増した。米国の大企業が投資も新規雇用もせず、これだけの現金を保有している理由のひとつは、米国および欧州の危うい経済情勢を懸念してのことだ。「2008年の(リーマンショックの際に)金融市場があっという間に機能不全に陥ってしまった状況を、各社の経営陣たちは忘れていない。ローリターンしか生み出せないとしても、キャッシュバランスを大きくしておいた方がいいと彼らは思っている」とムーディーズは分析している。

■新興市場で過去最高の業績

 4~6月期の各社の決算報告でもうひとつ顕著だったのは、多くの企業が国内よりもアジアやラテンアメリカといった急成長中の新興市場で過去最高の業績をあげた点だ。複合企業ゼネラル・エレクトリック(General ElectricGE)、先述のキャタピラー、化学大手ダウ・ケミカル(Dow Chemical)などは、そうした新興市場で強力な売り上げを記録し、同期国内の低成長を相殺できたのだ。

 ドル安によって、世界の消費者にとっては米国製品の価格が下がって輸入しやすい状況にあり、今後もこの傾向には拍車がかかるとアナリストたちはみている。「(米企業の)大きな伸びは米国内ではなく、米国外で起きている。全売上高に輸出売上高が占める割合が増えている企業がたくさんある」とキャンターのパド氏は指摘する。

 こうした米大企業の多くは2011年下半期についても楽観的な業績予想をしている。ワシントンの政争とデフォルトのリスクにばかり目を向けている投資家には見落とされている点だ。ドイツ銀行(Deutsche Bank)プライベート・ウェルス・マネージメント(Private Wealth Management)のオーウェン・フィッツパトリック(Owen Fitzpatrick)氏は「収益は今後も予想を上回るだろう。残る年内の見通しは明るい。これはポジティブな話だ」と期待する。それなのに「米国の債務上限引き上げの話でもちきりで、このことは明らかにかすんでいるね」(c)AFP/Alexander Osipovich