【3月29日 AFP】2010年度に140億ドル(約1兆1400億円)の利益を上げた米電機・金融大手ゼネラル・エレクトリック(General ElectricGE)が、米法人税を一切支払っていなかったことがわかり、米政権や連邦議会でも法人税改革をめぐる議論が再燃している。

 GE広報のアン・アイスリー(Anne Eisele)氏は、米国4位の大企業であるGEが制度を悪用しているのではないかとのAFPの質問に、「GEが前年度の米連邦法人税を支払わなかったのは、課税額がゼロだからだ」と否定した。

 米国の法人税は最低税率が35%と高く、世界で最も重税の国の一つだと嘆く企業も多い。しかし一般の納税者たちは、大企業は税金を払わないで済ませる方法に長けていると怒りが収まらない。

■不公平な税に改革の声再び

 しかし、全米数百万の世帯が家計のやりくりに苦心し、米連邦政府でさえも財政健全化に苦しんでいる中では、GEの法人税額がゼロだとの報道は、衝撃を持って迎えられた。

 バーモント(Vermont)州選出のバーニー・サンダース(Bernie Sanders)上院議員(無所属)は27日、「最も裕福な米国人や、最も利益を上げている米企業も、記録的な財政赤字を解消するために協力するべきだ」と訴えた。

 議論再燃を受けて法人税改革支持派は、大企業からホワイトハウス(White House)まで、その主張に磨きをかけている。

 ホワイトハウスは法人税の全面的な見直しは失業率低下につながると主張し、大企業の間でも税率引き下げで経済成長が促進されるという点で幅広い合意が得られているといえる。

■障壁に「財源」

 しかし専門家たちは、法人税改革が簡単に合意に達するという見通しは幻想に過ぎないと指摘する。財政赤字を増やさずに法人税の最低税率を実質的に引き下げる手段は限られている。法人税を払う人の数を増やすか、歳入を他で増やすしかない。

 カリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)で経済学を教えるアラン・アウアバック(Alan Auerbach)氏は、「法人税率を35%から28%に、20%分削減しても歳入を減らさないためには、課税基盤を20%増やさなければならないが、これは非常に大きな数字だ」と指摘する。

■財源確保に国外子会社への課税は?

 米内国歳入庁(Internal Revenue ServiceIRS、日本の国税庁に相当)にとって最も効率的なのは、国外子会社の利益への課税だろう。

 現在の規則のもとでは、米企業は国外の子会社の利益については、その利益が米国の本社に入らない限り課税されない仕組みになっている。子会社を国内企業とみなすことで、GEのような企業に対して高額の法人税を課すことができるようになる。

 GEは、2010年度に納税すべき金額が減った大きな原因はGEキャピタル(GE Capital)の損失だったと説明している。また、多くの控除を利用してGEの実効税率は7%程度だった。だが、それ以外にも、利益の一部は国外で会計処理されているのだ。

■「税収中立」改革の障壁となる多数の「控除」

 バラク・オバマ(Barack Obama)大統領は、実効税率と法定税率とのギャップ解消に乗り出しており、「税収中立」改革は、多くの人が利用している「控除」と引き替えにでも実現するべきだと主張する。

「法定税率だけを見れば、(米国の税率は)非常に高い。だが、多くの企業の実効税率ははるかに低い税率になっている」と、サンノゼ州立大学(San Jose State University)で会計学を教えるアネット・ネレン(Annette Nellen)氏は指摘する。

 これに憤慨するにせよしないにせよ、法人税率引き下げを実現するには厳しい駆け引きが必要となる。ネレン氏はこう語る。

「『ダメだ、研究控除はなくせない。ダメだ、雇用機会控除はなくせない』と言う多くの人びとがどうするか次第だ。仮に、多くの人がこういった控除をなくしてはならないと主張するのであれば、議会は『わかった。じゃあ法人税率はいまのままにしておこう』と改革を中止するだけだろう」

(c)AFP/Andrew Beatty