【1月3日 AFP】2010年、中国・北京(Beijing)市の自動車販売店のショールームには中流階層の夢を買おうとする人々が押し寄せた。しかし今、その姿は見当たらない。

 北京市は12月、慢性的な交通渋滞と大気汚染を軽減するため、2011年の自動車の新規登録台数を削減すると発表した。渋滞にイライラさせられているドライバーには朗報だが、自動車販売店やこれから車を購入しようと思っていた人には悩ましい事態だ。

 中国の自動車メーカー、奇瑞汽車(Chery)のある販売マネージャーはAFPの取材に対し、登録台数の削減が始まった12月24日以降、1台も売れていないと嘆いた。「2011年は儲からない年になる」と言いながら彼が見渡すショールームには退屈そうな数人の販売員と、すでに購入を決めていた車の契約をまとめに来たわずかな顧客しかいない。「売り上げが下がるのは間違いない。わたし自身の収入や職も心配だ。車のセールスマンならみんな同じことを考えているよ」

■24万台に制限、2010年の3分の1

 激しい交通渋滞を緩和する試みとして北京市当局は今年、ナンバープレートの発行にくじ引き制を導入し、新たな登録車両を24万台に抑える計画だ。2010年の新規登録台数のわずか3分の1だ。

 年内に新車登録を済ませようとの消費者の思惑から12月の自動車販売台数は急増し、第1週目だけで前年同期の9000台の倍以上となる約2万台を売り上げた。小型車減税の期限が年末までだったことも追い風になった。

■大気汚染への効果には疑問符

 経済的に余裕のある住民が増えて自家用車への需要が高まり、北京の大気汚染は悪化するばかりだ。汚れた空気を吸わないよう自転車に乗るのをやめ、自動車を使う人がますます増えたとも言われている。

 しかし環境保護団体は、台数を制限したところで北京の汚染レベルはほとんど変わらないと指摘している。国際環境保護団体グリーンピース・チャイナ(Greenpeace China)の気候変動・エネルギー問題担当者は、「遅きに失した政策だ。北京の交通渋滞、そして大気汚染はとっくにコントロール不能になっている」と嘆く。

 2009年に米国を抜いて世界最大の自動車市場となり、今年は全国で計2000万台の販売が見込まれる中国。北京以外にも各地の都市が渋滞緩和策を導入している。

 以前から新規車両登録台数を制限している上海(Shanghai)は、人口は北京と同程度だが登録自動車台数は北京の3分の1程度だ。

 広州(Guangzhou)では、ナンバープレートの末尾の数字で日ごとに走行できる車を制限している。同様の規則は北京にもあるがほとんど守られていない。北京ではこの規則を逃れるためにナンバープレートの末尾の数字が違う車をもう1台買い足す市民もいるため、かえって車の台数が増えているとの批判さえある。

■小規模の自動車販売店に打撃か

 北京市の規制強化が自動車の販売台数に影響を与えることはないという専門家もいる。

 米調査会社IHSグローバル・インサイト(IHS Global Insight)の市場アナリスト、ジョン・ゼン(John Zeng)氏は「自動車業界全体への影響はそれほど大きくならない。せいぜい年間20万~30万台の違いだろう」という。同氏は買い替え需要で販売台数は伸びると予測する。また、北京市周辺の自治体で車両登録して北京市の規制を逃れる動きも出るとみている。ゼン氏は、規制による真の犠牲者は小規模販売店で、2~3割が閉店するのではないかとみている。

 しかし、もっと厳しい予測もある。中国の業界団体、全国乗用車市場情報連席会(National Passenger Car Information Exchange Association)では、自動車販売店の半数が市場からの撤退を余儀なくされると予測している。

 閑散とした奇瑞汽車のショールームで営業部長は、月間販売台数は2010年の1か月200台から45台まで落ち込むだろうと語った。スタッフの賃金カット以外に、この難局を切り抜ける方策は見あたらない。「売り上げを上げる良いアイディアが思いつかないんだ。しばらくは様子をみるしかないよ」

(c)AFP/Allison Jackson