【8月21日 AFP】アジア開発銀行(Asian Development Bank)は19日に発表した「アジア中流層の台頭」と題する報告書の中で、今後20年間あまりで、アジアでは8億人が貧困層から中流層へ移行し、「それによる課題も生まれるが、域内および世界全体にとって前例のない機会が生まれるだろう」と予測した。

 同報告書によると、アジアの新しい中流層の性格は、教育水準が高くなり、都市部に住み、少子化が進み、今よりも進歩的な価値観をもち、車や家電の購買に夢中になるなど、欧米の富裕国の中流層と近づく。報告書では、1日2~20ドルの消費を行っている人を「中流」と定義している。

■2030年にはアジアの消費合計は世界の43%

 中流層が突出して増えるのは、驚くまでもなく人口大国の中国とインドで、2030年には中流人口がそれぞれ10億人を超す。中国ではすでに、2008年現在で人口の63%にあたる8億1700万人が貧困層から中流層へ移行し終わっており、現在のアジアの中流人口19億人の大きな部分を占める。

 すでに発展を遂げている日本と韓国をのぞき、「現在開発途上のアジア諸国も2030年までに、中流かそれ以上の水準となる」とADBチーフエコノミストの李鍾和(イ・ジョンファ、Jong-Wha Lee)氏は述べている。

 世界経済の牽引力として期待されるのが、この新たな中流層の所得増加による消費力だ。2008年には全体で4兆3000億ドルだった個人支出は、2030年には約8倍の32兆ドルに達し、世界の消費合計の43%を占めるほどになり、「アジアは世界の工場から、世界の消費者へと変わる」と報告書は予測している。
 
■環境にはマイナス面も、政治経済には明るい見通し

 そうした消費力の爆発は社会、政治、環境にも変化を及ぼすだろう。

 環境面では膨大な人口が欧米型の物質的満足を追求し始めることで、気候変動や環境の悪化、水資源や土地をめぐる競争など、負の影響が多く現れそうだ。また人間の健康にも欧米型の食生活による成人病などの増加が懸念される。

 政治経済の分野では、新たな金融危機や戦争、大規模な自然災害など、激しい経済的混乱が起こるリスクがあり、それによって上昇傾向が見られていた階層移動が逆転する事態が起こりうる。現在1日当たりの消費が2~4ドルと、中流層の中でも最低水準にあるインドの中流層が、そうしたあおりを最も受けやすいという。

 ただし経済全体の傾向は、個人の富が増えて事業の好循環が起こり、見通しは明るいとADBでは分析している。例えばインドの自動車大手タタ・モーターズ(Tata Motors)が「世界一の低価格車」として売り出した「ナノ(Nano)」のように、企業はアジアの中流層をターゲットにした低価格商品をいっそう生み出していくだろう。

 また裕福になった市民たちは政治により関心をもつようになり、そうした市民の要求に応えるために、アジア各国の政府は公共サービスの充実や透明性の向上を強いられるだろうと報告書は指摘している。(c)AFP/Adam Plowright