【9月14日 AFP】創業158年の名門証券大手リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)が経営破綻(はたん)して、15日で1年となる。米史上最大といわれたこの破綻劇で2万5000人の従業員が職を失い、世界中を席巻した金融危機は今日もなお各国経済に影を落としている。

 リーマンで債権トレーダーとして高成績をあげていたローレンス・マクドナルド(Lawrence McDonald)さんは、同社幹部が初期の警告に耳を傾けていたならば、リーマン・ショックは起きなかっただろうと考えている。

■警告は05年ごろから、幹部は耳貸さず

 マクドナルドさんによれば、不動産市場が暴落寸前だとの警告は2005年ごろからあり、当時のリチャード・ファルド(Richard Fuld)最高経営責任者(CEO)やジョセフ・グレゴリー(Joseph Gregory)社長兼最高執行責任者(COO)の耳にも入っていた。ところが、上層部は警告に耳を貸さず、何の行動も起こさなかったという。

「社員2万4992人が稼いだ金を、たった8人の幹部が台無しにしたんだ」

 豚肉セールスマンから一流債券トレーダーに上りつめたマクドナルドさんのチームは、1日で2億5000万ドル(約226億円)もの利益を上げることもあった。マクドナルドさんは今でも旧リーマン本社ビル脇を通るたび、背中に冷や汗が伝うという。

■「メリケンサックで押しつぶされた」リーマン社員

 リーマンは自己資本に比して業界トップの過度の借り入れ資金を有し、2007年には正味有形株主資本170億ドル(約1兆5000億円)に対し、投資総額は7500億ドル(約67兆8000億円)にまで膨らんでいた。かなりの部分が不動産担保証券(Mortage-Backed SecuritiesMBS)に投資されており、後に「不良債権」に姿を変えた。

「リーマン内部では、非常におかしなことが幾つか行われていた。(経営陣が陣取った)本社ビル31階は、ウォール街のミステリースポットだった。リーマンにはリスクを恐れない非常に有能な社員たちがいたが、政治的に裏をかかれ、ブドウのように押しつぶされたんだ。経営陣は圧政を敷いた鉄の拳にメリケンサックまではめていたのさ」(※rule with iron hand=圧政を敷くの意)

 あなたは個人的に幹部に対して問題提起を行ったのかと問うと、マクドナルドさんは、自分には幹部らと直接話す手段がなかったと述べた。「経営陣に直接問題提起を行うなんて、完ぺきな自殺行為だったんだ」。しかし、直属の上司は警告を発していたという。

■リーマン・ショックは今後の道しるべ

 現在はパンゲア・キャピタル・マネージメント(Pangea Capital Management)でマネジング・ディレクターを務めるマクドナルドさんは、リーマン破綻の教訓は「将来起こりうる同様の事態に対する警告として重要なだけではなく、究極的には実体経済をよりよくしていく上で道しるべになるだろう」と話す。

 マクドナルドさんは7月、元社員ら200人以上に聞いた話をまとめた共著『A Colossal Failure of Common Sense: The Inside Story of the Collapse of Lehman Brothers(大いなる良識の失敗:リーマン・ブラザーズ破綻の内幕)』を出版、同書の中でファルド元CEOら幹部が短期利益を追うあまりに高すぎる危険をおかしたと批判した。同書はベストセラーになっている。(c)AFP/P. Parameswaran

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