【8月11日 AFP】2008年のノーベル経済学賞(Nobel Economics Prize)受賞者のポール・クルーグマン(Paul Krugman)米プリンストン大学(Princeton University)教授は10日、世界を襲った昨今の経済危機について、「第2次大恐慌(Great Depression 2.0)」は回避したが、グローバル経済の完全な回復には少なくとも2年はかかるとの見解を表明した。

■もうひとつ地球がなければ輸出主導型の回復は無理

 マレーシアのクアラルンプール(Kuala Lumpur)で行われたビジネスフォーラムで講演したクルーグマン氏は、金融危機の最悪の時点は過ぎ去ったが、世界は今、日本が90年代に体験した「失われた10年」のような長期的な経済減速に直面していると述べた。「ここからどう脱出するのか。その答えとなる手法は、神のみぞ知る、だ。われわれにはロールモデルが不足している」。

 クルーグマン氏いわく、過去には経済危機によるダメージを受けた国々は、貿易黒字幅の大きい国々を相手に輸出を増やして苦境を脱することで、素早い経済回復がみられてきた。しかし、現在の状況では「貿易の相手として地球をもうひとつ発見することでも可能でない限り、今回の世界的な金融危機から、輸出主導型の回復は見込めない。つまり、困難さの程度は深刻だ」。

 しかも、そのほかの解決法、つまり個人消費や企業投資、住宅ブームなどによって回復に弾みがつくことは、米国経済でも国際経済でも今回はありえないという。クルーグマン氏は「『第2次大恐慌』は回避したと思える」としながらも、「完全な回復には少なくても2年、いやそれ以上がかかるだろう」と指摘した。

■世界は今、日本の「失われた10年」と同じ

 クルーグマン氏は現在の世界経済の状況を、「90年代の日本のグローバル版」だと表現した。「外見上は、日本は不況のなかで失われた10年を過ごしただけのようにみえるが、総じてその期間は一貫した低成長期だった」。

 現在の打撃と比較しうるものを探そうと思ったら、エコノミストたちは1930年代を振り返らなければならないとクルーグマン氏は言う。世界的不況が「第2次世界大戦という、非常に巨大な公共事業」によって終わりを告げた時代だ。「できれば、その戦略を繰り返さないといいのだが」とクルーグマン氏は冗談めかしながら、政策立案者はさらなる経済刺激策や、より高いインフレ目標、企業への投資活性化の促進を試みることができるはずだと述べた。「どの対策が効果を発揮するかは分からない。だから、全部をやってみる必要がある」

 また、今回の危機の再発を予防するために、もっと効果的な銀行規制を採り入れた金融システムの再構築と、主要機関が引き受けられるリスクの制限が必要だとクルーグマン氏は提言した。「原則は、銀行など、危機の際に救済されねばならないものはすべて、危機でない際には、やはり銀行のように規制しておく必要があるということだ」

「そのとおりになるか確信はないが、わたしたちが今回、世界恐慌の完全な再来をどうにか回避したという事態のマイナス面は、根本的な改革を目指す政治的機運が、変化を起こすに足るだけの強さを備える前に、あまりに早く経済を救済しすぎた点かもしれない。つまり、遠くない将来、また同じことが一から繰り返されるのではないかとわたしは心配している」(c)AFP