【7月20日 AFP】豪華な会食に酒、カラオケ――中国でビジネスをやる上で切っても切れない重要な役割を占めてきたこれらの慣習が、英豪系資源大手リオ・ティント(Rio Tinto)社員がスパイ容疑などで逮捕された事件を機に、見直されるかもしれない。

 中国当局は5日、リオ・ティントの上海(Shanghai)事務所幹部ら4人を、贈賄と国家機密情報を盗んだ容疑で逮捕した。このニュースに、中国ビジネス界には戦慄が走った。

 事件をめぐる不可解さと、中国的な恣意的な法の執行に加え、政府との結びつきが強い中国企業においては商業データさえ国家機密とみなされる可能性が明らかになったことが、伝統的に人間関係の強い結びつきを重視する中国ビジネス界に混乱を引き起こしたのだ。

■「コネ」重視の商慣行

 北京(Beijing)在住の調査会社IHSグローバル・インサイト(IHS Global Insight)のアナリストは今回の事件について、 「中国で事業展開する外国企業にとっては非常に気になる問題」と分析する。「中国には公にはされない商慣行がたくさんある。政府関係者とコネ、いわゆる『関係(guanxi)』を構築するのもその1つだ」

 中国で働く外国企業の幹部らは、こうしたコネをつけるには個人的にカラオケに行ったり会食をしたり、欧米のビジネスシーンでは未知の領域に踏み込まなければいけないと口をそろえる。

「中国でのビジネスは信頼関係に基づくことが多く、一緒に酒を飲むことは契約を取る手段の1つだ。酒を飲んだりカラオケに行ったりというのは、単なる仕事上のつきあいを超えて1人の人間としての自分を見せることを意味する。中国人の商談相手と酒を飲めなければ、ビジネスは非常に厄介なことになる」(投資会社幹部)

『China for Businesswomen(ビジネスウーマンのための中国)』という著書もある米企業幹部トレーシー・ワイレン(Tracey Wilen Daugenti)氏は、取引相手の中国企業の幹部と会談する際、マッサージ店に招待されたと述懐した。「要するに、足をマッサージしてもらいながら商談を行うということです」

■接待と贈賄の線引きはあいまい

 リオ・ティント事件後、中国の国営メディアは外国企業の「コネ作り」にスポットライトをあて、必要以上に豪華な接待などを通じて中国企業幹部にすり寄っているのはリオ・ティント社員だけではないと示唆している。しかし、こうした報道は、接待と贈賄の線引きをより難しくしているだけのようだ。

 前出のワイレン氏は、「私利私欲に基づいて金銭的見返りを要求する賄賂と、『関係』は異なる」と指摘。中国企業が契約締結時に要求する「コミッション」も、全取引相手に対して要求している以上必ずしも賄賂には当たらないと見る専門家もいる。

 しかし一方で、中国では法を執行する際に、当局の自由裁量に依る部分が大きいことを指摘する専門家もいる。「リオ社員が『スパイ行為』に当たることをしたとしても、それは最初は当局が認めていたことなのだ。だが突然、当局は手のひらを返して彼らを逮捕した。中国ではよくあることだ」(ビジネススクール運営者)

 接待と賄賂の線引きはどこにあるのか。リオ・ティント事件については、国家機密が絡んでいる以上、答えが公に示される日は来ないかもしれない。(c)AFP/D'Arcy Doran