【10月14日 AFP】世界各国を襲った金融危機の余波が、高級車業界にも及んでいる。富裕層が損失埋め合わせの手早い手段として、手持ちの高級車を売却し始めたのだ。

 豪シドニー(Sydney)の高級車ディーラー、ノーマル・エルコーディ(Normal Elkordi)さんの店にも、青年実業家らが続々と新車の高級スポーツ車を売りに訪れている。「GM車やフォード車の話じゃないんだ。アストン・マーティン(Aston Martin)やフェラーリ(Ferraris)を売りたいというんだよ」

 エルコーディさんも、このような事態は経験したことがないと驚いている。「天井知らずの富を稼いだんだろうが、今回の株価暴落で随分と損をしたのだろうね。しかも、彼らの買い物は通常、先行投資だから、負債の支払いが先決なんだろう」

■アジアの好況にもかげり

 米国に端を発した金融危機の影響は、高級車の主要市場、アジアにもじわじわと迫っている。シンガポールの高級車業界関係者は、遅かれ早かれ悲観的な影響は避けられないと見ている。問題は、その影響度合いの大きさだ。

 近年、高級ブランド業界は香港や中国本土の富裕層をターゲットとしてきた。しかし、ここにも陰りが見え始めている。

 超高級車ロールスロイス(Rolls-Royce)の1人当たり所有率で世界一を誇る香港だが、本来なら1年で最も稼ぎ時のはずのここ数週間、ロールスロイス販売店から富裕層の姿が消えている。

 香港ロールスロイス・モーターカーズ(Rolls-Royce Motor Cars Hong Kong)のゼネラル・マネジャー、レオン・ロイ(Leon Roy)氏は、「富裕層は金融危機の影響を直接は受けていない。しかし、700万香港ドル(約9200万円)もするような贅沢品の購入は控えているようだ」と、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)紙に語っている。

 一方、フェラーリのアジア・太平洋部門広報は、中国でのフェラーリ車売上げは、依然として順調だと語る。実際、香港でのフェラーリ車人気は高く、現在も購入待ちの状態だ。金融不安の影響で購入予定者リストの人数が多少減ることはあっても、売上げ減少の気配はないという。

 しかし、アウディ・シンガポール(Audi Singapore)取締役のレインホールド・カール(Reinhold Carl)氏は、「シンガポールでも、売上げの減速は避けられない。自動車業界にとって、2009年は厳しい年になるだろう」との予測を、英字紙ストレーツ・タイムズ(Straits Times)に語っている。

 シンガポールでトヨタ自動車(Toyoa Motor)の高級車「レクサス(Lexus)」を販売するボルネオ・モーターズ(Borneo Motors)のウィリアム・チョウ(William Choo)コマーシャル・ディレクターは、翌年の自動車販売は小型車や廉価モデルが主流になると予測する。

 一方、独高級車BMWの販売代理店、パフォーマンス・モーターズ(Performance Motors)のサイモン・ロック(Simon Rock)取締役は、「来年は、今年以上の売上げ増を見込んでいる」と、強気の姿勢を崩していない。(c)AFP