【10月14日 AFP】(写真追加)「2-3か月後、株価はさらに上昇している」。1929年10月当時、著名な米経済学者アービング・フィッシャー(Irving Fisher)はこう予測した。だが、その2週間後、米株価指数は2日間で23%も大暴落し、米国は大恐慌に突入、フィッシャーの名声も急落した。

 フィッシャーは低金利政策を支持し複合デリバティブ商品を提唱したが、これらが現在の金融危機を招いたとの指摘もある。

 こういった経済学者の信念を支えているのは、市場は確実な「ファンダメンタルズ」に導かれる自動均衡機能を備えているという均衡理論だ。これによると投資家は株式の売買に際し、企業業績やマクロ経済のニュースなど損失と利益の可能性を示す信頼できる情報に基づき理性的な判断を下す。そのため株価は実態価値に基づき中立的なバランスを保つ。

 しかし多くの研究者は一般均衡理論が1929年の大暴落を説明するのに不十分だと主張している。ちょうど2008年の株価急落や、実際あらゆる株価のバブルと崩壊について説明できないように。

 金融不安が起きると、投資データへの不信感に計り知れない損失への原始的な恐怖、さらに人間の生存本能が加わり、徹底的な売りに走る。

「今回の危機を招いたのは、企業の発表に対する全面的な信頼の欠如だ」とフランス系シンクタンク「インターナショナル・クライシス・ウォッチ(International Crisis Watch)」のThierry Libaert氏はいう。

 不信が広がると、大衆はささいな事象にも過剰反応し、事態の悪化を招くという。「例えば、明日、ある銀行の前に長い列ができる。すると、だれもが銀行に押しかけるだろう。こうした場面が夕方のニュースで放映されれば、影響はさらに大きい」(Libaert氏)

 パリ(Paris)にあるコンサルタント会社「Equancy」のエコノミストRobert Zarader氏は、多くの投資家にとって、金融業界は恐ろしい「パンドラの箱」になりはててしまったとみる。明らかになっていない金融機関同士の相互に入り組んだ取引の規模から、もはや正確にリスクを測ることさえ不可能だということに気がついたというのだ。「現在の金融危機では非合理性が大きな問題だ。だれも事態を把握しておらず、現在までに明らかになっている問題は、氷山の一角に過ぎないとの考えが広がっている」(Zarader氏)

 一方、スイス連邦工科大学(Swiss Federal Institute of Technology)の物理学教授、Didier Sornette氏は、投資家だけでなく危険を伴う単一思考をあおったアナリストやファンド・マネジャーにも、金融危機を招いた責任があるとの考えだ。

「アナリストやファンド・マネジャーは群れたがる傾向が非常に強い。情報収集の方法にもよるが、1人だけで正しいよりも群れと共に誤っていたほうがいいからだ。ほとんどの場合、一緒に間違っている方を選ぶ。そうすれば『皆わたしと同じだ』と言い訳ができるからだ。1人で間違っていれば、責任を追及され仕事を失うからだ」 

 フランスの物理学者ジャン=フィリップ・ブショー(Jean-Philippe Bouchaud)氏は、同僚とともに3月に発行した研究のなかで、株価は、均衡理論によると重要なデータストリームである新情報に反応して上がるとの考えに真っ向から反論している。

 ブショー氏らが2004年8月から2006年8月までのダウ・ジョーンズ(Dow Jones)とロイター(Reuters)が配信するニュースと米株式893銘柄の値動きの関連を調べたところ、新情報で値上がりしたり変動をもたらしたりすることはなかった。むしろ平均的には変動幅を小さく低下する傾向がみられたという。

 では、急激な値動きの原因は何なのか?
 
 ブショー氏は、「ファンダメンタルズの変化のみで説明するには変動が大きすぎる。変動過程そのものが不規則なのだ」と述べている。(c)AFP