【4月10日 AFP】9日にコメ価格が1トン=930ドルと前月比52%増の記録的高値を更新したタイでは、今まで犯罪と無縁だった貧しい農村部で、ある異変が起きている。

 収穫期を迎え、コメ農家のTakham Uthaoさん(48)の日課には、超貴重品となったコメを盗もうとする不届き者たちを田んぼから追い払うという仕事が加わった。

「いつも耳をすませていて、イヌが吠えたらすぐに走って田んぼに異変がないか見に行くんだ」と話すTakhamさんだが、コメ泥棒を責める気にはならないという。世界的なコメ価格の上昇が、タイでも食糧インフレを招き、豚肉、鶏肉、野菜でさえ値上がりしているからだ。

 とりわけコメの価格高騰は、コメが主食のタイでは深刻な問題だ。「コメは生活そのものなんだ」とTakhamさんは話した。

 コメを主食とするのは世界の人口の半分以上にあたる。食糧として以外に、宗教儀式やお祝いの席でも欠かせない品だ。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、バングラデシュの洪水、ベトナムのペスト被害、中国の天候不順などにより、アジアのコメ供給量が激減。生産国が輸出制限を行っているため、価格上昇を招いているのだという。

 価格上昇は輸出国に恩恵をもたらす一方、国内への供給不足懸念から、輸出世界第2位のインドと第3位のベトナムは輸出制限に乗り出した。
 
 影響は、コメを両国からの輸入に頼っていたフィリピンやバングラデシュに波及した。フィリピン政府は飲食店に使用するコメの量を半減するよう通達を出し、バングラデシュでは軍が村人たちにイモ食を勧めた、コメの価格が不正に操作されないよう民兵組織が見張っている、などの情報が飛び交っている。

 また、小売り店や農民がさらなる値上がりを待って売り渋る傾向もあるという。

 コメ輸出世界第1位のタイの2007年の輸出高は、推定950万トン。しかしタイのある農民は、コメ価格の上昇による恩恵は全くないと言う。それどころか、インフレによる稲、肥料、ガソリンの値上がりにより、出費はかさむばかりだそうだ。(c)AFP/Thanaporn Promyamyai