【9月15日 AFP】好調なロシア経済の恩恵は、北方領土にも波及しているようだ。現地の住民は拡大する国内景気を最大限にしようとしている。

■島民は「国家の経済発展」を「自分の財布」で実感

 日本が北方領土と主張する北方4島の最大の島・択捉(Iturup)島で、バスの運転士をするRoman Kazachikovさん(27)は、「経済の拡大を実感する。物価も上昇しているが、少し前には職場全員の給料が引き上げられた」と笑みを浮かべて話す。

 銀行員のIrina Sypkinaさん(40)は、「国家予算の拡大に従い、住民の貯金も増えているが、この傾向はまだ続く」と話す。

■地場産業の好景気から電力需要も急速に増加

 また、大量消費国・日本と地理的に近いことで、漁業により島の経済が支えられ、牽引されている。択捉島最大の企業で、漁業・水産加工を中心に、建設業や不動産業も手がけるギドロストロイ(Gidrostroy)は、昨年には最先端技術を使ったコンベヤーシステムを導入した水産加工工場を建設した。

 年間400トンの加工能力を持つこの工場では、作業用の上着と白い帽子を身に着けた女性中心の従業員100人以上が、港に横付けされた漁船から巨大掃除機のような仕組みでパイプの中を吸い込まれるように運ばれてくるマスやサケを加工している。

 工場長は「水産加工品の需要は急速に拡大している」と話す。また、ギドロストロイの幹部によると、同社の加工品は、ロシア国内だけでなく、日本、中国、韓国に輸出されている。新工場の建設費は明かではないが、すでに投じた額は回収済みだという。

 一方、自治体は、蒸気と温泉を至る所で吹き出す活火山・バランスキー山(Mount Baransky)を活用した地熱発電所の改修を進めている。発電所のVasili Lebedev所長は、「電力需要が急速に伸びているため、この発電所に非常に大きな期待が寄せられている」と改修の重要性を強調した。

■北方領土返還交渉で日本の経済支援は切り札にはならない?

 交流事業の一環で、まれにこの島を訪れる日本人も、めざましい経済の発展を認めている。

 8月中旬、2日間にわたって行われた交流会に参加した教育関係者の1人は、「北方領土の島々は、時代に取り残されているものだと思っていた。しかし、今は経済支援ではなく、経済交流を考えることが必要かもしれない」と述べている。

 また、別の参加者は、現地住民が「強い経済」に自信を深めていると感じたという。領土交渉を有利に進めるために、「援助を差し伸べる」という手法は通じにくくなるのではと話していた。(c)AFP