【6月17日 AFP】関連子会社の不正行為、秘匿された利益、法的手段に訴えるとの脅し、「悪行」や企業内の「暴政」だとの主張。これらの言葉や表現は凝った企業物の小説の中だけに使われるものではない。

 仏食品ダノン(Danone)と中国での事業パートナーのあいだに持ち上がった企業間紛争では、これらの表現が実際に使われることとなり、外資企業が中国で事業を展開するリスクを明確に示すことになった。

 この一件は、事業に成功を収めた外資・中国の合弁企業がその後、互いに責任を押し付け非難を繰り返し、いがみ合う状況を見せている。多くの外資経営者らにとって、これは中国の事業パートナーとリスクを分かち合うにあたっての訓話ともみなされている。

「わたしの考えでは、もはや中国パートナーを持つ必要性はない」と、かつて中国で合弁会社に出資した経験を持ち、現在は製造業者に生産ラインを提供する事業を完全外資で展開するオーストラリア国籍のMic Mittasch氏は述べる。

「中国パートナーを持つ多くの外資企業は現在、パートナーが持つ影響力を排除する動きを強めている」と、Mittasch氏は述べる。

■合弁解消を模索するダノン

 ダノンヨーグルト(Danone yogurt)やミネラルウォーターのエビアン(Evian)を製造するダノンも現在、中国最大の飲料メーカーWahahaの合弁の解消を模索している。

 1996年にWahaha創業者で中国で最も成功しているといわれる企業家Zong Qinghou氏と合弁会社を設立した後、ダノンは数千万ドル(1ドル=約123円)を投じ、Wahahaの持つ中国国内の流通ネットワークでダノン製品の販売を促進してきた。

 ところが今月、ダノンはWahahaを相手取って、同社が数十社におよぶ会社を設立し、不正にダノン・Wahahaによる合弁会社の製品を販売したうえ、ダノンが受け取るべき利益を支払っていないとして米国で訴訟を起こした。

 ダノン側は不正取引によるダノンの損失は1億ドル(約123億円)に上ると主張している。

 これに対して、WahahaのZong氏は会長職を辞したものの、ダノンが合弁会社傘下の企業に対し「敵対的買収」を試みているとして、対抗姿勢を鮮明に示している。

 Zong氏に忠誠を誓う合弁企業の従業員らは、ダノンによる企業の支配について、革命の指導者・故毛沢東(Mao Zedong)主席の言葉を引用して「悪行」と怒りを込めて形容し、断固抵抗する姿勢を明らかにしている。

■『ミスター・チャイナ』さながらの現実

 今回の騒動はまさにティム・クリソールド(Tim Clissold)が2002年に著した『ミスター・チャイナ(原題Mr. China)』のページを引き裂いたような出来事のようでもある。同書は、クリソールドが米投資ファンドAsimcoの代表として中国に赴任していた1990年代に経験した時のビジネスシーンでの一連の騒動を詳細に記述した作品。

 同書のなかで、話の巧みな中国人のビジネスパートナーがAsimcoの資金を不正に利用して工場を建設し、競合する製品を製造したり、不正な利益を得て負債を埋めたりする。

 クリソールドらは結局、数億ドルの損失を被ったが、同様の問題を抱える西欧企業は今日でも存在する。

「中国人のビジネスパートナーは、こちらの指を一本を見せただけで腕ごと持っていこうとする」と仏重電メーカー・アルストム(Alstom)が中国で展開する合弁企業Tianjin Alstom Hydro Coの役員Anders Maltesen氏は話す。同社は、中国が進める三峡(Three Gorges)ダム水力発電所プロジェクトで発電用タービンを生産する。

 Maltesen氏によると、1995年の合弁企業発足以来、アルストムは意見の不一致が度重なり起きたことで、徐々に中国人共同経営者の権利を買い取ってきたという。

「中国では、契約書の署名は、しばしば単なる交渉開始としかみなされない」と同氏は商慣行の違いを指摘する。

■合弁企業のリスク

 WahahaのZong氏は14日、合弁企業5社からの撤退およびダノンに対する訴訟をちらつかせることで同社をけん制する姿勢を示した。一方ダノンが新たに任命した会長は断固たる態度を明確にするとともに、事態の収拾には門戸を閉ざさないことを明らかにした。

 専門家は、事態の結末がどのようになろうとも、合弁企業のリスクが強調されることになると指摘する。

 かつての中国の法律によると外資企業は中国での合弁が必要とされたが、中国企業にとって合弁企業は外資系企業の保有する外貨を手にする手段でもあった。一方、外資系企業も中国パートナーによって、同国でのすみやかなシェア拡大、ビジネス、法務、および文化的環境に即したサポートの提供を受けることができた。

 中国の市場と法的制度が発展したことにより、同国企業にとって外資の資金の必要性が減少したことで、合弁のリスクは拡大し、外資企業にとってはしばしば合弁による利点を上回っていると、Beijing Consulting GroupのEdward Smith氏は話す。

「合弁企業は独自展開に比べ、しばしば仕事量が増えるというのが結論」と、顧客の外資企業に合弁企業の完全子会社化を助言するSmith氏は述べ、「現在中国には、十分な訓練を受けた専門職の専門家がいる。合弁でビジネスパートナーがもたらしてきた利点のほとんどは現在市場で購入することが可能となった」と強調する。(c)AFP/Dan Martin