【3月8日 AFP】史上最大規模の震災だった東日本大震災からまもなく1年が経とうとしている中、日本の科学者たちは、近い将来、東京に大きな被害を及ぼす大地震が起きる可能性を警告している。

 昨年3月11日に発生し、巨大津波を引き起こしたマグニチュード(M)9.0の東北地方太平洋沖地震以降、3500万人が暮らす首都圏の地殻活動は3倍に増え、毎日平均1.5回近い地震が東京とその周辺で記録されている。しかし東京の人びとは、就寝中でも仕事中でも揺れを感じることに慣れてしまい、地震の多くは話題になることもなくやり過ごされている。

 東京が世界で最も耐震性に優れた都市の1つであることは疑いない。震源からわずか370キロしか離れていなかった東北地方太平洋沖地震で交通機関は一時的に混乱し帰宅困難者は推計で500万人を超えたが、建物の被害や死傷者は比較的少なかった。

■M7.0を超える地震への備えを

 東京大学(University of Tokyo)地震研究所(Earthquake Research Institute)によると、地下で4つのプレート(岩板)がぶつかり合っている東京が、今後4年間にマグニチュード(M)7.0を超える巨大地震に見舞われる可能性は50%だという。独立行政法人海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and TechnologyJAMSTEC)の平朝彦(Asahiko Taira)理事は、そうした地震に備えなければならないと言う。

 JAMSTECのシミュレーションによれば、平日夕方に東京湾北部でマグニチュード7.3の地震が発生した場合、約6400人が死亡し、16万人が負傷するという。また多くは火災や液状化現象によって、合計で約47万1000棟の住宅やビルが破壊される。また一瞬にして約9600万トンのがれきが生じると試算している。これは東北地方を襲った巨大津波が残したがれきの4倍に相当する。
 
 帰宅困難者は数百万人に上り、緊急避難所には収容しきれない。また100万世帯以上で水、ガス、電気、電話が数日間使えなくなり、経済的な被害額は日本の国内総生産(購買力平価による米ドル換算)の約3分の1、1兆4500億ドル程度に上ると推計される。

■構築進まぬ首都のバックアップ体制

 日本の政治、経済、文化の中心である東京が大地震に襲われればその影響は全国に及び、日本人の生活は大混乱に陥るだろう。さらに世界の産業における日本の影響力を考えれば、地震の影響は国境を越えて広がるだろう。
 
 毎年世界で発生する地震のうち、規模の大きなものの5分の1は日本で起きている。米地質調査所(US Geological SurveyUSGS)によれば、1923年に起きたマグニチュード7.9の地震が引き起こした関東大震災では、建物の倒壊や火災などで14万2800人が亡くなった。この地震は、一国の首都が事実上機能しなくなるとどうなるのかという記憶を日本に残した。

 日本では長年にわたって首都機能のバックアップ体制作りについて論議されてきた。東京から西へ550キロ離れた大阪が候補地として適当だという声もある。しかし、政府機能のバックアップを作るには膨大な費用がかかることから、財政赤字が膨れ上がり景気の低迷も続く中で、どの政治家も真剣な動きを見せていない。

 しかし科学者たちは今、リスクを軽減するために手を打つ必要があると警鐘を鳴らしている。海洋研究開発機構の平氏は、地震がいつ来るかを正確に予測するのは極めて難しいが、地震が起きたらどうなるかを予測することは可能で、そこから被害を最小限に食い止める戦略を構築しなければならないと強調する。

■首都圏以外のリスクも無視できない

 一方、日本の地震学者が「東京大震災」の危険性にばかり気を取られ、他のリスクが見えなくなることを懸念する専門家もいる。東京大学のロバート・ゲラー(Robert Geller)教授(固体地球科学講座)は、54基の原発がある日本のどこについても大地震が起きるリスクを無視してはならないと警告する。

 ゲラー教授はAFPに、政府による地域別の地震リスクの評価は、昨年の3月11日以前に「東北地方のリスクは非常に低い」と評価した際に用いたのと同じ誤った方法論によるもので、全く意味がないと指摘した。(c)AFP/Karyn Poupee