【5月10日 AFP】きのうは軽やかになびいていた誰かの髪の毛が、きょうはストッキングに詰められ、メキシコ湾から海岸線に押し寄せる原油の除去作業に使われる――。

 英エネルギー大手BPが操業する海洋石油掘削基地「ディープウオーターホライズン(Deepwater Horizon)」の爆発事故で大量の原油がメキシコ湾に流出している事態を受け、米NGO「マター・オブ・トラスト(Matter of Trust)」には、切った髪の毛やペットの毛、使用済みストッキングが世界中から大量に送られてくる。同団体は毛をストッキングに詰め、原油を吸収するオイルフェンスや敷物を作っているのだ。

「マター・オブ・トラスト」の共同創設者、リサ・ゴーティエ(Lisa Gautier)さんはAFPに対し、「フランス、英国、スペイン、ブラジル、オーストラリア、カナダ、米国の人たちが協力を申し出た」と語る。

「37万軒の美容室、10万軒のペットサロン、そしてアルパカや羊を育てる農家から毛が送られてきます。この前は異性装者の団体から、非常に長いストッキングが送られてきました」

 7日の時点で、同団体には1日20万キロ以上の毛が集まっているという。

 ゴーティエさんは、「天然繊維をリサイクルする仕組みがない国々からの反響がものすごいんです。電話も鳴りっぱなしで」と語る。

 詰めるのは大きいサイズのストッキングが最適だという。ボランティアが毛を詰めたストッキングをつなぎ合わせ、最後にビニールのネットをかぶせると、原油を吸収するオイルフェンスができあがる。

 このオイルフェンスは、メキシコ湾内に設置されている巨大なオイルフェンスとは別物で、ビーチに押し寄せる原油を吸い取るために使われる。

■きっかけは、美容師のアイデア

 もともとのアイデアは、1998年にアラバマ(Alabama)州の美容師、フィル・マックロリー(Phil McCrory)さんが、原油流出によって真っ黒になったアラスカラッコを見た瞬間に「アハ体験」をしたことが発端だとされる。

 マックロリーさんは2008年、米公営ナショナル・パブリック・ラジオ(NPRNational Public Radio)に対し、「もしラッコが油まみれになるなら、自分がほうきで掃いている髪の毛もそうなるんじゃないかと思ったんだ」と語っている。

 マックロリーさんはサロンの床から集めた髪の毛を持って家に帰り、妻のストッキングにそれを詰め、プールに油を流した。そして汚れをストッキングで吸収してみると、「1分半ほどで水はすっかりきれいになり、油は全部ストッキングに染みこんでいた」という。
 髪の毛や動物の毛は、通常の場合、重量の約6倍の原油を吸い取ることが出来るといい、その効果は抜群だ。ちなみにマイクロファイバーを使った「本物」の工業用オイルフェンスは、重量の15倍の原油を吸い取ることができる。(c)AFP/Karin Zeitvogel