【9月28日 AFP】台風16号「ケッツァーナ(Ketsana)」による大洪水に見舞われたフィリピンで、30人を超える逃げ遅れた人びとを助け、最後に生後6か月の女児を救い命を失った18歳の建設労働者がたたえられている。

 この「英雄」、ムエルマル・マガジャネス(Muelmar Magallanes)さん(18)の遺体は28日、棺に入れられ、洪水で壊滅したマニラ(Manila)郊外の村の避難所に安置された。ムエルマルさんに助けられた人びとは口々に哀悼と感謝をささげた。

「ムエルマルさんには一生感謝する。彼はわたしの子どものために命を投げ打ってくれた。彼の犠牲は絶対に忘れない」。発泡スチロール製の箱に入って流れていた赤ちゃんの母親、メンチエ・ペナロサ(Menchie Penalosa)さんは語った。マガジャネスさんは自分が流される前に女の子を無事、連れ戻した。
 
 台風16号が首都マニラとその周辺に約40年ぶりの豪雨をもたらした26日、マガジャネスさんは家族と家にいた。兄の手を借り、マガジャネスさんは自分の腰にひもを巻きつけ、それを3人の年下の兄弟に1人ずつ取り付けて、全員を高台まで避難させた。それから引き返し、今度は両親を救助した。

 泳ぎの達人だったマガジャネスさんは、さらに屋根の上に取り残された近所の人たちを救いに戻ろうと決心した。こうして何度も往復し、最終的にはおぼれるところだった30人を超える人びとを救った。

 しかし、さすがのマガジャネスさんも疲労し、体が震え始め、高台にいる家族の元へ戻ったとき、ペナソラさんの叫び声が聞こえた。発泡スチロールの箱に乗って急流を渡ろうとしていたペナソラさんが、生まれて間もない娘と一緒に洪水に押し流されようとしていた。

 マガジャネスさんは茶色の濁流に飛び込み、流されかけていた親子に追いついた。

 助けられたペナソラさんは、「どこからともなく男の人が現れて、わたしたちをつかんでくれた。ほかの近所の人たちのところまで連れて行ってくれたかと思ったら、そこで姿が見えなくなってしまったのです」と涙をこぼした。(c)AFP/Jason Gutierrez

【関連記事】フィリピン、台風16号の死者100人超す 新たな台風の接近も