【9月21日 AFP】仏南部オートサボア(Haute-Savoie)県の避暑地シュバリーヌ(Chevaline)で男女4人が射殺された事件が起きてから1年が過ぎた。仏英合同捜査本部は、遺産相続をめぐる親族内の争いや産業スパイが動機になった可能性があると発表した。

 捜査責任者の仏アヌシー(Annecy)検察当局のエリック・マイヨー(Eric Maillaud)検事は「大きな進展があった」と述べた。

 2012年9月5日、シュバリーヌ付近に止まっていた自動車の中からイラク系英国人家族3人の射殺体が発見された。20発以上が発砲されていたが、当時4歳と7歳の娘は無事だった。さらにその近くで、サイクリング中に通り掛かったとみられるフランス人のシルバン・モリエ(Sylvain Mollier)さんの遺体も見つかった。

■遺産相続めぐる確執

 事件から1年になる5日、仏英合同捜査本部は記者会見を開き、事件の背景に数百万ドル(数億円)規模の遺産相続をめぐる親族内の確執があった可能性があると発表した。

 マイヨー検事によると、被害者のサード・ヒリ(Saad al-Hilli)さんと兄のザイド・ヒリ(Zaid al-Hilli)容疑者はイラクなどにある不動産をめぐって不和があった。サードさんは、兄のザイド容疑者が「父親から長年にわたって現金を盗んでいた」として、父親の遺産については「自分だけが相続人になるように行動していた」という。

 また兄弟のイラクに暮らす親族も不動産関連のいさかいに関わっていた可能性があるという。「イラクで父親の不動産を管理している彼ら(親族ら)が不動産を手に入れるために兄弟2人がいなくなればよいと考えていなかったか、という疑問が浮上する」と、マイヨー検事は述べた。

 捜査当局は今年6月、事件の数週間前にザイド容疑者の自宅からルーマニアにかけられた電話の相手の特定を試みていると発表。その後まもなく、ザイド容疑者は英警察当局に殺人共謀の容疑で逮捕され、取り調べを受けた。ザイド容疑者は起訴されることなく保釈されたが、英警察のニック・メイ(Nick May)警視は「ザイド・ヒリ氏は容疑者として名前が上がっている。今後も取り調べを続ける」と述べた。

■産業スパイの可能性も視野に

 一方でマイヨー検事は、サード・ヒリさんが「優秀なエンジニア」として、外国との取引も多い英人工衛星企業に勤務していたことが事件の背景にある可能性も指摘した。

「外国や産業スパイなどについて検討するなら、情報機関の関与についても検討することになる」とマイヨー検事は指摘し、「それはこの事件の捜査の中でも極めて難しい部分だ。多くの時間を要し、何の結論も出ないかもしれない。この方面の捜査はまだ終結からはほど遠い」と語った。

 またマイヨー検事は、サイクリングで通り掛かり殺害されたとみられるフランス人のシルバン・モリエさんは事件に関与しておらず、居合わせた時と場所が悪かっただけだろうとの見解を示した。(c)AFP