【5月30日 AFP】1人は強姦未遂などで起訴され、もう1人は未成年売春などで公判中──。国際通貨基金(IMF)の前専務理事、ドミニク・ストロスカーン(Dominique Strauss-Kahn)被告(62)と、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)首相(74)は、訴えられた理由こそ異なるものの、そのスキャンダルには通底する部分がある。

 この「ベルルスカーン」コンビの事件の教訓は古くからあるものだ。つまり権力の堕落と、一部の男性政治家の傲慢さだ。2人を比較するコメンテーターの1人、ミラノ(Milan)在住の社会心理学者、キアラ・ヴォルパート(Chiara Volpato)氏は「彼らは女性を自分たちの快楽のための道具だと思っている。取り替えが効くモノだと思っているのです。女性たちにどんな思いをさせるかなんて気にも掛けていない」と糾弾する。

 フランス国立科学研究センター(CNRS)の哲学者ミケーラ・マルツァーノ(Michela Marzano)氏も同様の意見だ。「なんと言っても権力の乱用の問題だ。ひとたび権力を手にすると何でもできると思ってしまう。法律より自分が上だとさえ思ってしまう」

■今に始まったわけではない性的スキャンダル

 イタリアのベルルスコーニ首相は17歳の少女を相手に買春した疑いのほか、この少女が窃盗容疑で逮捕された際に首相の地位を乱用して警察に釈放を働きかけたとされており、公判はミラノで31日に再開される。一方、ストロスカーン被告は米ニューヨーク(New York)の高級ホテルで女性従業員を襲ったとされる。

 いずれも無罪を主張しているが、2人とも性的なスキャンダルでこれまでにも批判を浴びてきた。ストロスカーン被告は先ごろ、IMFの部下の女性と過去に不適切な関係を持ったことを認めた。ベルルスコーニ首相は、容姿が気に入った若い女性たちを議員にしようとしていたと前妻から非難されている。前妻はベルルスコーニ首相のことを「処女が自分を差し出すドラゴン」と表現した。

 しかし、2人には重要な違いがあると指摘する声もある。ベルルスコーニ首相のブレーンで、トークショーの司会者でもあるジュリアーノ・フェラーラ(Giuliano Ferrara)氏は、「素晴らしい人物にもてなされて喜んでいる可愛い女の子たち」がいたという事実の周辺に疑惑が持ち上がっただけだと反論する。ミラノ大学の犯罪学者イザベラ・メルザゴラ(Isabella Merzagora)氏も、ベルルスコーニ首相の事件の場合には、女性に性的関係を「強制」した要素はみられないと言う。

■「ストラスカーン氏はイタリアに移住すべき」

 一方、前述のCNRSの哲学者マルツァーノ氏は、フランスとイタリアでの事件の反応の違いを説明する。フランスでストロスカーン被告は、ニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)大統領に対抗しうる次期大統領候補として有力視されていた。スキャンダル発覚後の世論調査では、ストロスカーン被告が「はめられた」と感じた国民が多数を占めた。マルツァーノ氏は、こうしたところにいまだフランス社会にも存在する男性優位的な反応を嗅ぎ取ったという。

 一方、事件に関与したとされる男性がある種、「被害者」視されている点はどちらも場合も同じだが、イタリアのほうが女性の尊厳がおとしめられており、「男性たちはマッチョであることを誇りにしている」と指摘する。ベルルスコーニ首相はほぼ毎日のように、自分を起訴した検察を「共産主義者のタリバン」、「社会のがん」などと呼んでは好き放題に非難している。ベルルスコーニ首相の別の買春スキャンダルの際には、弁護側は首相は「エンドユーザー」だったに過ぎないと主張した。

 ベルルスコーニ首相批判の先鋒に立つイタリア人ジャーナリスト、マルコ・トラバーリョ(Marco Travaglio)氏は、2人の名前を合わせて「ベルルスカーン」と銘打った論説で、ストロスカーン氏に「フランスはあきらめてイタリアへ移住したらどうか」と皮肉たっぷりに提案した。

「きっと法相が強姦を免罪する法律を作ってくれるだろうし、弁護士があなたは『ホテルのメイドのエンドユーザーだっただけだ』と言うってくれるだろう。あなたがまだ政治キャリアに明るい未来を期待できるのはイタリアだけだ」

(c)AFP/Michele Leridon