【2月14日 AFP】(一部更新)結婚の際に旧姓を捨てて夫の姓にすることをほとんどの女性に強いている民法の規定が、夫婦同等の権利を定めた憲法に違反しているとして、女性4人と原告女性の夫1人の男女5人が14日、国を相手に賠償や民法規定が違憲であることの確認などを求めて東京地裁に訴えを起こした。

 この訴訟は、日本で男女平等を今以上に実現しようといううねりの中で起きた出来事だといえる。日本では、結婚した女性は退職して主婦になり、育児に努めるべきだとの社会的な圧力が依然として強い。しかし、長引く景気低迷のなかで、結婚後も仕事を続けたいと希望する女性は増えている。職場での姓も変えたくないという女性も多く、夫婦別姓を認める制度を求める声が高まっていた。

 原告の1人で富山市の元教諭、塚本協子(Kyoko Tsukamoto)さん(75)は、50年以上にわたり公的な場で夫の姓を使わざるを得なかったことで精神的苦痛を受けたと語る。塚本さんはプライベートでは旧姓を用いていたが、法的書類やパスポート、クレジットカードなどには夫の姓を使わなければならなかった。塚本さんは、塚本協子として生まれ、塚本協子として死ぬことが自分の望みだと語った。

■世論は二分

 民法750条は結婚した夫婦が同じ姓を名乗ることを規定している。ほとんどの場合、妻が夫の姓を名乗ることになる。

 現在の民法は1898年に施行されたもので、当時は全国民に初めて姓が義務づけられてから間もない時期だった。日本は第2次世界大戦後に新憲法が公布されたものの、民法の夫婦の姓の規定は、夫の姓を名乗ることを義務とすることから、夫婦で別姓を名乗ることを禁止することに変わった程度だった。

 2009年に民主党(Democratic Party of JapanDPJ)が政権交替を実現すると夫婦別姓を認める民法改正への期待が高まったが、当時の連立与党だった国民新党(People's New PartyPNP)が強く反発した後に、改正は急速に立ち消えた。

 夫婦別姓をめぐる世論は、最近の政府調査によると、民法改正に賛成が37%、反対が35%で二分されている。

■国連は勧告

 原告の打越さく良(Sakura Uchikoshi)弁護団事務局長は、国連(UN)が日本に対し「差別的な」制度を廃止するよう勧告しているにもかかわらず、男性に偏った氏名制度を採用していると指摘する。

  2009年に国連の女性差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Discrimination Against WomenCEDAW)は、日本が男女平等に向けた取り組みで成果を上げておらず、特に夫婦同姓の制度を指摘した。

 打越氏は、政治の議論が中断しているので、訴訟で問題が進展することを期待すると語った。

■訴訟で「進展を期待」

 日本の司法制度では、裁判所が個別の訴訟ごとに違憲判決を下すことができ、国会に是正を求めることができるが、たとえ最高裁で違憲判決が出た場合でも法令の改正を強制することはできない。

 しかし、原告らは勝訴により夫婦別姓を認める方向に進展すると期待している。

 原告の1人、加山恵美(Emie Kayama)さん(39)は、姓を法律が決めるのでなく個人が選択するべきだと主張する。加山さんの婚姻届は、夫婦の姓が別々だったため、地元当局に受理を拒否されたという。

 姓が異なっているというだけの理由でその2人が結婚していないと考えるのは間違っている、と加山さんは語る。また、夫に自分の姓を名乗らせることもいやだという。なぜならば、夫に自分と同じ悩みを感じさせたくないからだ、と加山さんは語った。(c)AFP/Shingo Ito